日本最高齢のインスタグラマー
5月15日の誕生日で、寂聴先生は96歳になった。私が寂庵で働き始めたときは88歳。先生は「そんなに先が長くないからね」「もう来年まで生きているかわからないから」と、ずっと言っている。今年に入り、朝日賞と星野立子賞という二つの賞を受賞し、「去年死んでたらもらえなかったのだから、何が起こるかわからない」と驚いている。
「早く死にたいわ」と口癖のように言う先生に「長生きも悪くない」と思ってほしくて、何か刺激的な、先生がワクワクするようなものを一緒に出来ないかと、私は日々頭を悩ませている。先生は96歳には見えないほど頭の回転が速く、好奇心旺盛だ。そんな先生だからこそ平凡な日々が続くとつまらなくて、この世に飽きてしまうのだ。
去年の流行語大賞になった「インスタ映え」という言葉がある。インスタグラムというスマートフォンのアプリを使えば、写真を加工して投稿し、世界中の人々と共有できる。去年のデータでは、世界中で8億人以上が利用しているという。
新しいもの好きな先生は、スマートフォンが出ると即座に使い始め、今はタッチパネルでメールを打っている。私は、もっと若い人たちに先生のことを知ってほしくて、インスタグラムを始めることを先生に提案した。
「人の写真なんか見て楽しいの?」と先生は半信半疑だったが、始めるとすぐにフォロワーと呼ばれる読者がみるみる増え、1ヵ月もたたないうちに3万6000人になった。日々みるみる増えていく数字に先生はワクワクして「今日、何撮る? リハビリは? 寂庵の庭は?」と自ら提案してくれる。
私は、インスタグラムを、先生の日々を紹介するだけではなく、先生が本当に伝えたいことを伝える、大きなツールに出来ると信じている。先生は日本最高齢のインスタグラマーとして、どんどん世の中に先生の思いを発信している。さて先生、今日は何を撮りましょう?(2018年5月)