2021年11月9日、作家の瀬戸内寂聴さんが亡くなった。秘書の瀬尾まなほさんは、2011年に寂庵に就職して以来、10年以上の時を寂聴さんとともに過ごしてきた。

 ここでは、二人が過ごしたかけがえのない日々を記録した『寂聴さんに教わったこと』より一部を抜粋。瀬尾さんとの66歳の年の差を感じさせない寂聴さんの若々しいエピソードを3つ紹介する。(全2回の1回目/後編を読む

©文藝春秋

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おしゃれは66歳差を超えて

「それすてきね!」と寂聴先生は私の着ている服をよく褒めてくれる。「そんなの私も欲しいわ」と言われ、私は同じ服を代わりに買ってあげたりプレゼントしたりした。すると自然と、おそろいの服が増える。年の差が66歳あるにもかかわらず、先生はその服を上手に着こなして、まるで自分が選んだよう。

 先生は、洋服のカタログなどに載っているスタイル抜群の外国人モデルと同じように、自分もその服を着こなせると思っている。そして実際に届いたら「ズボンの丈が長すぎるわ!」と怒る。

「先生、体形が全く違いますよ! 先生の脚の長さはきっとモデルさんの膝小僧くらいです」なんて言って怒られるかと思ったら、先生は爆笑した。それからカタログで洋服を見るたび「このズボン、七分丈が私にはちょうどいい長さね」なんて自虐している。

 法衣を着ているイメージが強い先生だが、普段はカジュアルで、セーターにズボンというスタイルが多い。今日は、私がプレゼントした黄色のセーターを着ている。明るい色が似あう先生は赤、黄色の服を好む。

 私は、先生に洋服を贈るのが大好きだ。先生が着ている姿をイメージして、どれにしようか悩む時間も楽しい。先生は、全て私の想像以上に上手に着こなしてしまう。

 先日も私が着ていた服を褒めてくれたので、色違いの白い服を渡した。それを着て写真を撮ると、先生のうれしそうな顔! ところが「こんないいもの、汚れたらもったいない」と、すぐたんすにしまってしまった。「残り少ない人生で、今着ないでどうする」と思わず口に出しそうになる。……いや、口に出してしまっている。

 出家する前は、着物や洋服でおしゃれするのが好きだった先生。出家する時、その全てを人にあげてしまったそうだ。そのとき私がいれば、先生からたくさんの洋服を譲り受けられただろうか。残念な気持ちもある中で、私はそれ以上の、お金に代えられない愛情をもらっている。(2018年11月)