「目撃証言から、拳銃を発砲した犯人の一人は身長170cm強で黒い服装。もう一人は身長165cmほど、どちらも日本人かアジア系外国人ということは掴んでいた。だがこの時点で新宿署は、犯人の国籍、人物像など事件解決に結びつく明確な情報を掴めていなかった」(警察関係者C)
外国人犯罪の解決にもっとも必要なのは情報
ここで、すでに情報を掴んでいた国際捜査課の幹部が、挨拶と同時に手短に事件の概要を説明。幹部たちもその説明に外国人による犯行と判断、国際捜査課が事件の担当となる。
「凶悪事件だが構図は単純。背景もわかりやすい。結果的には日本人の暴力団と中国人マフィアの勢力争いによる殺しだ。中国人マフィアは拳銃を2丁も隠し持っていたことから、最初から殺るつもりだったのだろう」(警察関係者C)
事件がどのように発生したのか、いきさつはどうだったか、すぐに情報の裏付け作業が行われた。
「入手していた情報を裏付ける映像が、あちこちの監視カメラや防犯カメラから次々とあがり、指紋などの証拠も出た」(警察関係者A)
スナックを出た後、どの道を通って暴力団幹部らが移動したのか、中国人マフィアがどこの角を曲がってどのビルに入ったのか。そこにどんな風貌のメンバーが何人、急ぎ集まってきたのか。どこからどこへ、誰と一緒に移動したのか。そして被害者も加害者も風林会館に、どのように移動してきたのかなど、街に設置されている防犯カメラがその姿を捉え、事件当時の双方の行動が明らかになった。
外国人犯罪の解決にもっとも必要なのは情報だと言われるが、まさにその情報が生きた事例といえる。
暴力団と喧嘩するバカはそういない
事件発生から2日後、国際捜査課は殺人などの疑いで中国人3人を逮捕。だが主犯格とされた男は、すでに本国に逃げ帰っていた。
「主犯格は中国人マフィアグループのナンバー2で、自分たちのグループの体面を守ろうと部下に指示し、暴力団員を襲ったという特異な事件だった」と警察関係者Bはいう。
裁判では、暴力団幹部2人を死傷させたとして中国籍の金在宇(ジン・ザイユイ)被告に無期懲役が言い渡され、中国に逃げていた主犯格の男も、半年後にマカオで中国の捜査当局に逮捕された。
この事件の前段として、犯人グループは、新宿を拠点とする住吉会系の他の組と揉めていたという話もある。殺されたXらがカラオケのいさかいぐらいで必要以上にいきりたったのも、そのような背景があったためかもしれない。
「暴力団と喧嘩するバカはそういない。中国人マフィアの凶暴性を甘くみていたのだろう」と警察関係者Aはいうが、一方、事件を起こした中国人らも暴力団を甘く見ていたのだろうと、推測している。