《そりゃあちょっと、ちょっとは頑張ってますよ(笑)。でも、とにかく地味なんですよ、私。だからキャリアが上がることもなく、ずーっと真っすぐ線みたいな感じで。まあ、そんなスタンスも自分らしくていいかなって思ってます。(中略)自分の中では現場に参加した時の充実度のほうが重要です。もちろん、「ギャラこんだけかい!」って思う時もあるけれど、でもやっぱりそれでやってるわけじゃない。良いスタッフさん、良い監督、面白い共演者と仕事する、同じものづくりの人たちと楽しく過ごすってことが大事なんです》(※3)

『半沢直樹』が転換点に「正直、もうほっといてほしい」

「とにかく地味なんですよ」と言っていた彼女が、40代に入る前後のここ数年で一気にメインストリートに躍り出たのだから面白い。エポックとなったのは、一昨年放送のドラマ『半沢直樹』(TBS系)で、内閣の支持率回復のため大臣に抜擢された元キャスターの政治家を演じたことだろう。もっとも、本人からすればほかの出演作と同じ一つの作品にすぎないのに、《世間の関心が高すぎるのが…ちょっと。注目を浴びるのが苦手なので、正直、もうほっといてほしい(笑)》と、戸惑いも見せた(※4)。

『悪女(わる) ~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』オフィシャルブログより

 なりたくてなった俳優だが、どうやらトップに立とうといった野心はさらさらないらしい。これまでを振り返っても、《上京して、「これからずっと自分のやりたい芝居の勉強が、できるんだ」と思ったときが、わたしの人生のピークなんです。その後はずーっと「キツいな、シンドイな」という気持ちが続いている。多くのオファーをいただいてうれしいんですけど、今が最高だとは思わないんですよ》と、自分の置かれた状況を冷静に見ている(※5)。

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いまなお劇団に所属しているわけ

 江口の理想は、かつて語っていたようにやはり現場でスタッフや共演者と一緒に楽しくものをつくっていくことにあるようだ。いまなお東京乾電池に所属するのも、《劇団はしつこく考えて芝居をつくっていける。わたしにとっては、心のよりどころみたいなもの》だからだとか(※5)。舞台にはデビュー以来、劇団公演を含めコンスタントに出演し続け、今年も、一昨年にコロナ禍で延期となっていた『お勢、断行』で5月から各地をまわり、秋にはミュージカル『夜の女たち』への出演も予定される。

『戦争と一人の女』(2013年)

『鎌倉殿~』の亀はハマり役だったが、ドラマではやや演じるキャラクターが固定化されつつある印象を受けるので、そろそろ新たな面も見てみたいところである。最近の対談では《私は永遠に使われる身でいたいです。自分で何かを企画するなんてこと、これっぽっちも考えてない》と話していただけに(※6)、意欲のあるつくり手との出会いに期待したい。

※1 『婦人公論』2019年7月23日号
※2 『ピクトアップ』2007年10月号
※3 『サイゾー』2014年3月号
※4 『an・an』2020年9月30日号
※5 『家の光』2021年1月号
※6 『週刊朝日』2022年4月1日号