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劇団での下積み時代、1か月で使った金額は260円

 兵庫県に生まれ育った江口は、小学6年の頃から学校が嫌いで、早々に高校には行かないと決め、自分のやりたいことを仕事にして自活したいと思っていた。役者への憧れは、所属していた陸上部を中学3年の夏に引退し、暇をつぶすため、NHKのBSで放送される映画を録画しては片っ端から観ているうちに芽生えたという。

 中学卒業から3年後には、「劇団東京乾電池」の試験を受けて合格し、19歳の誕生日に上京する。この間、バイトに明け暮れたが、収入の一部は母に渡したり、兄に貸したりしていたため貯金が増えず、2万円程度しか手元に残らなかったという(※1)。

©共同通信社

 上京してからは節約を心がけた。劇団の研究生時代は、家賃や光熱費がかからないとの理由で新聞販売店に住み込み、朝夕、新聞配達をしながら週2回の授業に出た。ちょうど1年勤めたところで劇団員になると、急なオーディションなどが入っても対応できるよう、定期的なアルバイトはしないと決め、とにかく金を使わないようにした。劇団へ行けば食べるものには困らなかったので、1ヵ月間でタバコ1箱買うための260円しか使わなかったこともあるという。

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『時効警察』で注目を集め、30代前半で「名脇役」に

 劇団での活動と並行して、2002年には三池崇史監督の『金融破滅ニッポン 桃源郷の人々』でスクリーンデビューを果たす。2004年にタナダユキ監督の『月とチェリー』で映画初主演を務めたあたりから、立て続けに出演のオファーが来るようになったという。ちょうど低予算映画が多く制作されていた時期でもあり、年間10本以上も出演した年もあった。

映画『月とチェリー』(2004年)

 主演ではなく、出番もさほどなくても、井筒和幸監督の『パッチギ!』(2005年)での朝鮮学校の生徒役など、当時から印象に残る役が少なくない。ある雑誌の記事では《まるでサブリミナル効果のように、一瞬の出演で観る者の脳裏に何かを残す女優》と紹介されたこともある(※2)。

 一般的に注目され出したのは、テレビ朝日系の深夜ドラマ『時効警察』(2006年)で「時効管理課」なる部署に所属する警官を演じたあたりだろう。同作では、お気楽な雰囲気の漂う署内にあって、ときどき辛辣なセリフを吐くスパイス的な役柄で存在感を示した。以後、ドラマ出演も増え、30代前半には名バイプレイヤーと呼ばれるまでになる。ただ、当時のインタビューでは、そう呼ばれることについて自覚はないとしたうえで、次のように自身の仕事に対するスタンスについて語っていた。