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オンライン会議の浸透で女性や若者たちの発言が活発化

 時田隆仁社長含めこの働き方のシフトには全社で取り組むと決めたものの、当初はトラブル続きだった。ネットワークが遅い、コミュニケーションがもどかしい、生産性が落ちると社内には相当ストレスも溜まってきた。

 だが、在宅でも働きやすい環境を整備するだけでなく、時間が経つにつれ、各社員がそれぞれ働き方を工夫してきたという。例えばこれまでは部屋のキャパの関係で男性、役職者中心だった会議がオンラインになったことで、若手や女性も参加するようになり、役職者の顔色を伺いながら発言していた社員たちもチャット機能を使って活発に発言するようになった。夜の飲み会でのコミュニケーションがなくなった代わりに会議で発言して決めておこうという雰囲気も生まれてきた。

「トップも含めて本気で会社が働き方を変えると決めたからこそ、だったら少しでも働きやすいようにと、社員一人ひとりが仕事の仕方や時間の使い方も考え出した。みんながやる気になったらできたんです」(平松さん)

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 社内調査では、全社員の85%が今の働き方に満足していると回答、女性だけでなく男性もポジティブに捉えている。通勤時間がなくなったことで「浮いた」時間は月平均30時間、心配していた残業も増えたのは0.9時間程度という。それ以上に、リモートワーク率の高い社員ほど睡眠時間が多く、社員の健康面でもプラスだという。

時間の主導権が自分にあると、女性たちも管理職を目指しやすくなる

 さらに女性たちが管理職を目指しやすくなったのにはもう一つの社内改革も影響している。富士通では2020年4月に新任課長のポスト600を上司の推薦でなく、社内公募で募るようにした。会社と社員、上司と部下の関係を変えたい、より対等にしていこうという意図で導入したところ、以前より女性の管理職登用が増えたという。

「人事からは常にもっと女性管理職を増やしてほしいとお願いしていたのですが、上司側からは『まだ経験が足りない』『希望する人がいない』と言われ続けていた。でも実は潜在的にはチャレンジしたいという人はいた。働き方などの問題で『できない』と思っていた人が一定割合いたんだということだと思います」(平松さん)

©️iStock.com

 前出の山岸さんもまさにコロナによって働き方が変わった時点で、この新任課長の公募に応じた。今は川崎駅にできた従業員1万人が利用する新オフィスの立ち上げという現場を任されている。自身も必要があれば現場に行き、社内向けの資料を作成するなど集中したい時には在宅と仕事の内容によって「働く場所」を選んでいるが、チームのメンバーにも同様に自分で選んでほしいと伝えている。

「時間の主導権が自分にあるということがストレスがなく、働きやすい。自分のスケジュールを、子どもの予定と仕事を見ながら自分で決められることがキャリアを考える上で前向きになれると思っています」(山岸さん)