「事情のある女性たちだけ」から「全員が当たり前に使う」制度へ
富士通では、コロナ前の2017年からリモートワークの制度は整えていた。しかし実際利用していたのは1割程度の社員。特に管理職は会社にいなければマネジメントはできないとほぼ出社していた。「『家で働いていいよ』と言うその管理職が出社していれば、『口ではそう言っているけど、本心は違うのでは?』と部下側は思ってしまう。制度があっても使いづらかった」(平松浩樹・執行役員常務)という。
「使いづらさ」を助長していたのは、社内にリモートワークは子育てや介護など「特別な事情がある人」が使うものだという、なんとなくの共通認識があったことだ。リモートワークの制度を導入した当初、平松さんは育児との両立のために制度を利用している女性社員を数人集めてヒアリングをした。「制度ができて良かったでしょう?」と聞くと、女性たちから「わかってないな」という顔をされたという。
「それどころか、『これは自分たちに本当に役立つものではない』と言われて、ショックでした。喜んでくれているとばかり思っていたので。『事情のある女性だけが使っている制度である限りは、私たちはいつまでも遠慮しながら働かなくてはいけない。管理職も男性もみんなが使えるものでないと、私たちは特殊な事情があり、特殊な働き方をしていると見られてしまう』と言われたんです」(平松さん)
それが2020年春コロナの感染拡大とともに、全社で在宅勤務に切り替わった。緊急事態宣言が解除されるや全社員に出社マストを呼びかける企業もあった中、富士通は早々に7月に「コロナが収束しても、その人が最適な場所と時間で働けるよう」という社員の生活を第一に考えた働き方を実現する「ワークライフシフト」宣言を打ち出した。就業時間も全社員に対して、コアタイムがない完全なフレックス勤務を導入。完全に「いつ、どこで働くか」は社員の裁量に任せるようになった。以降2年余、コロナの感染状況にかかわらず、社員の90%がリモートワークを続けている。
「全員が当たり前に使うようになって初めて、会議や情報共有の仕方からキャリア形成まで同じ環境になる。そういう環境が整ったからこそ、女性たちは安心して働けるようになり、時短勤務からフルタイムに戻したり管理職を目指したり、育休から早めに復職するという動きが出てきたんだと思います」(平松さん)