まるで山本広がやり損ねたことを、八角は一気にやったかのようだ
よく似たケースに、山口組の跡目争いがある。大親分・田岡一雄の没後、組長代行に就いた山本広と若頭の竹中正久のあいだで跡目争いとなる。山本は多数決に持ち込めば勝てると踏んで組長を決める札入れを目論んだり、「山本広がワンポイントで組長に就いて数年後に、若い竹中に禅譲する」などの懐柔を模索したりするが、すべてハネつけられ、そうこうするうち、竹中の巻き返しにあい、跡目を逃す。
まるで山本広がやり損ねたことを、八角は一気にやったかのようだ。その後の理事長選では、ふたたび八角と貴乃花が争い、今度は6-2で八角が圧勝する。「代行」が付いたままでは、結果が違ったかもしれない。政治の才能と言える。
メリー氏vs.飯島氏の場合
内部対立をあっさり片付けてしまったのがメリー喜多川だ。
ジャニーズ事務所内には2015年当時、SMAPのマネージャー・飯島三智とメリー喜多川の娘・ジュリーの派閥があると業界で噂されていた。両者のあいだに確執と後継者争いがあった。それについて文春が質問状を送ったところ、メリー喜多川は取材に応じる(注2)。彼女のインタビューが雑誌に掲載されるのは、およそ30年ぶりのことであった。
「私が失礼だと言っているのはね、(文春の)質問状のこと。『小誌の取材では次期社長候補である藤島ジュリー景子が……』って書いてあるけど、当たり前じゃない。(略)次期社長候補って失礼な。次期社長ですよ」と取材開始早々に記者を叱り、その勢いで後継者を明言する。
「もしジュリーと飯島が問題になっているなら、私はジュリーを残します。自分の子だから。飯島は辞めさせます。それしかない」。そして「対立するならSMAPを連れていっても今日から出ていってもらう」とまで言うのであった。
かくして飯島は退社し、SMAPを犠牲にしつつも、内部対立は終結する。そして彼女のもとに元SMAPの三人が集まる。
そのひとり、香取慎吾の番組「おじゃMAP!!」について、今週の「テレビ健康診断」で戸部田誠は書く。
《テレビの特性のひとつは、「長い年月を、多くの視聴者と共通体験として共有できること」だ》。そして、SMAPこそアイドル史上初めてその特性を最大限に活かすことが出来た、と。
それはどういうことか。
誰しもが事務所をやめれば干されてしまい、テレビから消えると思っていたろう。しかし「おじゃMAP!!」は継続し、香取は今もテレビに出ている。それは戸部田も書くように、香取への「思い入れ」を、多くの視聴者や番組に集まる同業者たちがもっているからだ。
それを思えば、生殺与奪は協会・親方しだいの相撲界は、気の毒に思える。
(注1)https://twitter.com/yonakiishi/status/438934472226918400
(注2)週刊文春2015年1月29日号掲載