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 他にもバンザイとして、油揚げや肉と大根をひと鍋で煮込んだ煮物をよく作りました。その鍋にご主人が野菜のヘタやらなんでもかんでも入れてしまうから、きれいに仕上げたいと思っている私は料理が汚される気がして、これはほんとに嫌でした。

 賄いは、基本一汁一菜ですが、時間がある時には、薄焼き卵で春巻きを作るようなこともありました。みんなが喜ぶだろうとカレー粉を買ってきて本格的なカレーを作った事もあるのですが、食べている最中にご主人が戻ってこられて、「日本料理屋でカレーのにおいがするとはなんちゅうこっちゃ!」ときつく怒られました。よほどいい匂いがしたのです。一度にたくさん作りましたから、なくなるまでまる2日間、カレーが視界に入るたびに怒られていました。怒られてあたりまえやと思います。

 うどんの出汁をきっちり引いてきつねうどんを作った時も、お店に戻られた瞬間に「うちはうどん屋か?」とまた怒られた。匂いにも、臭いにも、実に敏感な人でした。

一汁一菜でよいと至るまで (新潮新書)

土井 善晴

新潮社

2022年5月18日 発売