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「球界を代表する右の長距離砲になる」中日・鵜飼航丞の“忘れられない打席”

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/06/04

 待望の長距離砲がドラゴンズに現れた。身長182センチ、体重100キロ。好きな寿司ネタはサーモン。白地のユニホームに背中の「UKAI 4」が小さく見えるパワーヒッター、鵜飼航丞外野手だ。

 駒澤大学から2021年のドラフト2位で入団し、新人ながらチーム4位の4本塁打を放っている(6月1日現在)。何と言っても最大の魅力はパワー。春季キャンプで行われた日本ハムとの練習試合では、生田目翼投手のカットボールをフルスイングし、北谷球場の左翼後方にある防球ネット上段へ突き刺した。推定130メートルの特大アーチに、立浪和義監督も「外国人選手が打ったような打球」と表現。記者が阪神担当をしていた18年春季キャンプ中に見た、ロサリオの“推定170メートル弾”より飛んでた気がするのは、気のせいでしょうか……。

 鵜飼は名古屋市東区出身。大の中日ファンで、プロ志望を表明した際、「巨人は永遠のライバル。そこを倒して優勝したい」とドラゴンズブルーを熱望した。小学生の時はアライバの躍動に心躍らせ、ウッズ、ブランコの本塁打に度肝を抜かれた。高校生、大学生になっても、時間があればナゴヤドームでドラゴンズの試合を観戦し、夢への思いを募らせた。

鵜飼航丞

 山吹小、冨士中(軟式クラブチーム・名古屋ドジャースに在籍)を経て、名門・中京大中京高に入学。後にチームメートとなる伊藤康祐外野手らとともに甲子園出場も果たし、駒大からプロの門をこじ開けた。調査書は11球団から届いていたという。

 恵まれた体格がとにかく目をひく。高校入学時に70キロ台だった体重は、3年間で10キロ増え、大学4年間で20キロ増えた。特に、大学3年の3月、左手有鉤(ゆうこう)骨を骨折したが、リハビリ中はここぞとばかりに食トレ&ウェートに励み、3か月間という短期間で10キロ増に成功。1日3食の基本は変えず、プロテイン、バナナ、ちくわ、チーズ、チキンバーなどなど、とにかく補食を欠かさなかった。自ら発見した千歳烏山駅近辺の海鮮丼をウーバーでひんぱんに調達し、1日10食以上のときもあったとか。

 4歳上の兄・瞭汰さん、2歳上の姉・紫央さんの3兄妹だが、唯一お酒があまり飲めない。普段から仲の良い岡林勇希選手と焼肉に行き、隣で後輩がレモンサワーをごくごく飲み干していくのを「すげー」と眺めながら、ウーロン茶片手に山盛りの白飯をのみ込んでいくのが航丞青年だ。勝手なイメージで肉好きかと思いきや、肉以上に好きなのが魚。特にお寿司には目がないという。寿司ネタはサーモンが鉄板で、焼いたホタテをぱくりと頬張るのも大好き。和歌山にある祖父の別荘で釣った魚を食すのもオフの一つの楽しみだ。

カウント2ー0で見せた成長

 背番号4にとって忘れられない打席がある。3月27日、開幕3戦目の巨人戦(東京ドーム)。チームは4点差をひっくり返し、延長の末、立浪監督が初勝利した記念すべき一戦だった。鵜飼も8回に右翼フェンス直撃のプロ初適時打を放ち、反撃の狼煙を上げて勝利に貢献した。

 が、忘れられないのは適時打を放った1打席前。3点差を追う6回無死一、二塁の打席だ。相手は、東都で何度も対戦した同級生の赤星優志投手。カウント2ボール。内角、ボール気味の真っすぐに手を出し、力なき一飛に倒れた。「あの球は手を出したらダメ。カウントもそうだし、あの球はせめてファウルにしないといけなかった。打ちたい気持ちが強すぎたんですかね。悔しかった。あかんス」。実際、打席の動画を見ながら振り返ってもらったが、何度も首を横に振って悔しがった。

 時は2か月ほど流れ、5月24日の西武戦(バンテリンD)。ルーキーにとって初めての交流戦が開幕。この日、試合に負けたもののファンの度肝を抜く一発をたたき込んだ。3点ビハインドの3回、同じ新人の佐藤隼輔投手から右中間席へ4号ソロ。カウント2ボールからの外角のスライダー。見逃せばボールになっていたかもしれない球を、強靭な体をねじらせて振り抜き、スタンドまで運んだ。体勢はやや崩されながらも「完璧だった」という一発。右打者でバンテリンの右中間へ放り込むのは至難の業で、「まさか入るとは思わなかったが、しっかりスイングすることはできました。甘い球を1球で仕留めることができた」と振り返った。

 今季カウント2ー0から打撃成績が残ったのはこの2打席だけ(6月1日現在)。スポナビのカウント別成績2ー0の「打率5割」が、この2か月の成長を証明している。なお、この時の打球速度は170キロを計測した。

 立浪監督の「儀式的な初球の空振り」という厳しい言葉も期待の表れ。打率こそ今は低いが、長打率は4割を超える。開幕直後は左翼席への着弾が多かったフリー打撃も、最近は中堅付近へライナーでたたき込むまで成長してきた。ヒッチ、タイミング、足の上げ方。首脳陣とコミュニケーションを欠かさず取り組んできた練習がじょじょに結果へ繋がってきている。

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