竜党は大島洋平を「大島プロ」と呼ぶ。淡々とヒットを量産する姿に敬意を表しているのだ。

 正直に言う。私は選手を取材する時、本人の熱い想い、周囲からの奮い立つ言葉、未公開の感動秘話など「泣ける話」を求めている。今回も密かに求めた。なにせ大島は野手キャプテンを務め、試合を決める一打を放ち、首位打者に君臨している。きっと何かあるはずだ。しかし、予想はしていたが、やはりこの男にウエットでムネアツな物語は存在しなかった。

 去年12月、立浪和義監督から「キャプテンマークを付けてくれないか」と電話があった。心境を聞くと、「断れないすっよね」と笑った。大島は享栄高校3年時、エースでキャプテンだった。「同級生で2年生から試合に出ていたのが僕だけだったので、監督が指名しました。キャプテンの仕事? 何もしていません」と笑った。さすがにキャンプ初日に「C」が刻まれたユニホームを見た時は興奮したかと尋ねたが、「あ、付いているわって感じでした」とまた笑った。

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大島洋平 ©時事通信社

「目的は勝つこと。今は打てなくても、勝てばいい」

 4月2日、バンテリンドームナゴヤの中日・広島戦。1点を追う延長12回裏、1死一塁で大島は同点三塁打を打った。相手は栗林良吏だ。「打席での気持ちは?」「繋ぐ意識だけです」「狙いは?」「真っ直ぐが速いんで、真っ直ぐ」「貴重な一本でしたね?」「たまたまです」「三塁に達した時は?」「岡林、決めてくれ~」。泣けない。

 4月13日、バンテリンドームナゴヤの中日・阪神戦。0対0の延長10回裏、1死一、二塁でサヨナラ打を放った。「あの場面は?」「最後に甘い球が来ました」「根尾昂が抱きついたシーンは感動しました?」「へぇ、そうですか。誰か分からなかったです」「もみくちゃにされた時の喜びは?」「特に。それよりあの時、誰かがアクエリアスを掛けたんですよ。ものすごく甘い匂いがして。映像で確認したら、犯人はライデル(マルティネス)でした(笑)」。泣けない。

 もうあの日のことを聞くしかない。3月31日、バンテリンドームナゴヤの中日・DeNA戦。3連敗を喫した後、立浪監督はロッカーで「これだけ点が取れなかったら話にならん。野手全員でミーティングしろ」と告げた。空気は張り詰めた。沈黙を破ったのは福留孝介だった。「下を向いていても仕方がない。切り替えてやろうという話でした。僕は『みんなはどう思っている?』と振った感じです。岡林や平田とか数人ですね」。大島は進行役だった。これでチームは変わったのか。「いや、ミーティング自体ではなく、次の日に勝ったのが大きかったです。勝てたので、変われました」。泣けなかったが、大事な言葉を思い出した。

 10年以上前の夏、中日OBの鈴木孝政氏が教えてくれた。「今、甲子園やっているよね。いいよね。そう、一つになって勝つのがアマチュア。勝って一つになるのがプロなんだ」

 同じ夢を持つ運命共同体の球児たちは気持ちを一つにしやすく、結束して勝利する。しかし、プロは違う。年齢、国籍、レベル、立場、給料が異なる選手が集う。個々が食うために野球をする。時に味方も邪魔だ。そんな世界に「みんな一つになって戦おう」なんて青臭い言葉はないに等しい。勝利だけが関わる者全ての幸福。勝って初めて団結し、負ければ次第に崩壊する。大島も「目的は勝つこと。若い頃は自分が打って勝てば最高でしたが、今は打てなくても、勝てばいい。僕の役目は勝つ方向にみんなを向けることです」と語った。