コンテンツはまだまだ初期段階
この「球場のメタバース化」はかなり画期的な取り組みのようで、記者会見が行われたドーム内のプレスカンファレンスルームは多くの記者でごった返した。普段はプロ野球担当しか集まらないところにIT専門分野のライターや経済担当の記者も訪れたためだが、ホークスの番記者同士で「(前監督の)工藤(公康)さんの退任会見より出席者が多い」と顔を見合わせて驚いた。
会見に出席して分かったのは、コンテンツはまだまだ初期段階ということ。拡充されていく将来的なアイデアの中には「伝説の『あのシーン』のボールになれる世界初!?の体験!」なるものも示された。たとえば、〇月〇日の柳田悠岐選手のホームランをボールの視点から体験できるというのだ。プロの投手に投げられ、ホークスの誇るスラッガーに打たれ、外野席へ入るそのスピード感と迫力を、手元のスマホなどでいつでも、どこでも楽しめるという。
なるほど……。
今までの常識では考えられなかったことが実現可能になっていくのはなんとなく分かった。
だけど、本当に野球ファンが欲しているのはそのようなことなのだろうか。先述した打撃投手のボール分析のように、少しズレているような気もしてならなかった。
たとえば自宅に居ながら「リアルな観戦体験」ができる仕組みづくりがあればいいのにと思った。
自宅でARグラスやVRゴーグルのようなものを装着。首の向きに合わせて、球場の座席に設置されたカメラも同時に動く。ビジネスで考えれば「年間予約席」を遠方のファンに購入してもらえる好機になる。海外だって可能だ。我々が大リーグ・エンゼルスや欧州サッカーの試合を、現地に行かずとも自宅でリアル観戦として楽しめるかもしれない。また、カメラならば1席で1顧客でなくても可能なので、チケット売り上げ増だって期待できる。
より本格的な観戦体験を求めるファンのために、球場の座席そのものも販売すればいい。昔の球場は狭くて固いシートが当たり前だったが、近頃は居住性を重視した様々な座席が設置されている。また、野球観戦に欠かせないのはビールや美味しい食事だ。「バーチャルPayPayドーム」で買って自宅に届けば最高だ。さすがに売り子さんがあらゆる場所に配達するのは無理だろうが、インターネットのアクセスポイントから自分がいる場所を検知して近くのフードデリバリーが可能な店舗が出現する仕組みにすれば、これもまたビジネスチャンスになるのではないだろうか。
ただ、そのあたりを訊ねてみると、現在の技術ではまだ不可能らしい。「だけど10年後なら……いや5年後には可能になっているかもしれませんよ」と返ってきた。
聞けば、今回の取組も5G通信の導入により初めて可能になったもの。5Gサービスが一般に提供され始めたのはまだ2年前の3月のこと。その前の4G時代が2010年代だし、スマホだって15年前は殆どの人が持っていなかった(iPhoneの日本発売が2008年)。
「ソフトバンクがこのような取り組みをすることで、同じプロスポーツチームを持つ楽天やDeNAもアクションを起こすかもしれません。そうやって切磋琢磨することで技術革新が一気に進む可能性もあります」
観戦革命は我々の知らないところで今後一気に進んでいきそうだ。
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