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「オレはサダハル・オーを認めない」とアメリカの友人に馬鹿にされ…日本の球場と“狭さ”の物語

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/06/12
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東京ドーム開場で本塁打数が激減

 その夜、会社から帰宅した亡き父に学校であったことを話すと、「そう言われても仕方ないくらいに日本の球場が狭すぎるのは事実だよ。アメリカの球場のほとんどは両翼100メートル以上あるんだから」と返された。

 公認野球規則では「野球場の規格は、両翼は320フィート(97.534メートル)、中堅フェンスまでは400フィート(121.918メートル)以上とすることが望まれる。1958年6月以降に作られるプロフェッショナルの球場の両翼は325フィート(99.058メートル)を必要とする」と明記されているが、「その規格をクリアしたプロ野球の本拠地球場が1981年の時点では日本にひとつもないんだ。今、広いと言われてる横浜スタジアムや西武球場も達してない」と父は言った。愕然とした私は悔し涙に暮れ、そのままふて寝した。

 両翼100メートル、中堅122メートルの広さを誇り、野球規則に定められた規格を日本の本拠地球場で初めてクリアした東京ドームが開場したのは、その7年後の1988年だった。他の本拠地球場と比べ、その広さは圧倒的だった。既に日本に帰国し、大学3年生になっていた私は、アメリカの方角に向かって「この球場は笑わせないぞ!」と心の中で叫ばずにはいられなかった。

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 当初は「気圧の関係でむしろボールは飛ぶかもしれない」「左中間、右中間のふくらみがないからホームランは意外と減らないかもしれない」などと予想されたが、ふたを開けてみたら、本塁打は前年比で激減した。後楽園における87年のセ・リーグ1試合平均本塁打は2.2だったが、ドーム元年の88年は1.3。その後も1.3、1.6と推移した。両翼と中堅のサイズアップの影響は如実に数字に表れた。

 東京ドーム開場以降、日本で新たに建てられた本拠地球場はすべて公認野球規則の規格をクリア。東京ドームよりも左中間、右中間のふくらみがある球場も増え、いつしか東京ドームは「狭い」「本塁打が出やすい球場」と評されることが定番となった。1試合平均本塁打が3を超える年もあり、東京ドームの開場以来の1試合平均本塁打は2021年終了時点で2.2。通算で後楽園最終年と同レベルの本塁打率をマークしている。かつて日本一の広さを誇った東京ドームが「狭い」と位置付けられている事実は、日本の打者のレベルが昭和の時代と比較し、大きく向上している証ともいえる。

 球場をテーマにした取材時、掛布さんはインタビューを次のように結んだ。

「ぼくが現役でプレーしていた頃の球場って大半が消滅してしまったんですよね……。でもメジャーに近づくためには、いつまでもあのスモールサイズの球場でやり続けるわけにはいかなかったということだと思う。当時の狭い球場が姿を消したということは、日本の野球がアメリカのベースボールに近づいている証でもあるんじゃないかな」

 きっと王さんは平成、令和でプレーしていても、メジャークラスの現代の球場サイズにきちんと適応した打撃で年間40本以上の本塁打を量産していた。そんな気がしてならないのだ。

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