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〈プーチンは大統領に就任して間もなく起きた原子力潜水艦「クルスク」の沈没事故(2000年8月、乗組員118人全員が死亡)への対応で、その正体を垣間見せた。亡くなった乗組員の夫人らと面会した後に、プーチンは「奴らは売春婦だ」などと口汚く罵ったのだ。〉

「大統領はひどく怒っている」

 さらにプーチンは経済界に対しても圧力を強めてくる。

〈2003年にプーチンは私を個別に呼び出し、「特定の政党を支持するな」と要求した。私はユーコスの資金を使って政党を支援しないと約束した。しかし、ユーコスの従業員や株主が自己資金で政党を支持するのを止めることはできないとも伝えた。私は企業経営について決めることはできても、従業員や株主の政治的な指向まで統制することはできないと考えていたからだ。

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 プーチンはその時、黙っていた。だが後に彼の側近から、「大統領はひどく怒っている」と聞かされた。プーチンは、私が彼に挑戦しようとしているのだと決めつけたのだ。その時初めて、私とプーチンは市民の権利について根本的に考え方が異なっているのだと気づいた。〉

 それでもホドルコフスキー氏は粘り、プーチンの側近たちによる犯罪を指摘し「汚職と賄賂はもうたくさんだ」と訴えた。

プーチン大統領

〈ところがプーチンは一切耳を貸そうとしなかった。私はこの時、プーチンが汚職を政治の道具として使い、国を支配しようとしているのだと悟った。プーチンの本性を認識したその時からもう20年近く、私は戦っていることになる。〉

「西側のほうが折れてくる」とみるプーチン

 長期化するウクライナ侵攻だが、プーチンは勝算があるのだろうか? ホドルコフスキー氏は「西側がこの戦争の最後までプーチンと対峙し続けられるのかどうか、私は確信が持てないでいる」としたうえで、プーチンの目論見をこう推測する。

〈ウクライナの抵抗の生命線は、欧米の支援にほかならない。同国を勝利に導くためには、武器の供給から食糧、財政の支援まで、欧米は毎年、何千億ドルもの負担に備えなければならない。選挙のサイクルで回る民主主義陣営の指導者にとって、長期の関与は難しく、数か月~1年単位でしか先は見通せないことを我々は知っている。

 だからプーチンは長期戦に臨み、西側が折れてくるのを待っているはずだ。欧米がロシアに対してここまで厳しい経済制裁を発動し、ウクライナ支援で団結したことは誤算だったはずだが、戦争が長期化すれば、西側はウクライナを支えきれなくなるとプーチンは踏んでいる。西側の指導者だけでなく、社会情勢も持たなくなると見透かしているに違いない。インフレなど、戦争の副作用の痛みが広がってくれば、ウクライナを支持する西側の世論も変わってくるかもしれない、と。