綿矢りささん著『勝手にふるえてろ』は、こじらせ女子を勇気づけます、と松岡茉優さん。小説と映画をめぐる対談の後編です。前編 http://bunshun.jp/articles/-/5498
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明らかにこじらせてる子でもそこがかわいい
松岡 お話が終わったあと登場人物たちがどうなるのか、書かれているときには考えますか?
綿矢 『勝手にふるえてろ』に関しては、紆余曲折はあるかもしれないですね。ヨシカがよそ見したりとか。もしかしたら自分のことをモテ女と勘違いしているかも。
松岡 もう、本当にめんどくさい(笑)。
綿矢 そういうめんどくさいところがニには小悪魔的に見えたりするのかも。
松岡 ヨシカみたいに明らかにこじらせてる子でも、そこがかわいいと思ってくれる人がどこかにいるんだと思うと、ヨシカ的女子たちは勇気づけられますね。
綿矢 ヨシカもニも、世間的にはかなりずれてるんだけど、そこが逆に歪な形ではまっている。おもしろい関係だな、と映画を見て思いました。二人の掛け合いが本当に楽しくて。成熟した大人の恋愛ではないけれど、二人ともお互いを理想にあてはめすぎずに、欠損をこそ好きでいる。そういう二人だからこそ成立する恋愛なのかもしれません。
松岡 ちなみに、綿矢さんの他の小説ですが、『かわいそうだね?』の隆大(りゅうだい)とアキヨはどうなりますか?
綿矢 隆大とアキヨは、別れます。
松岡 やっぱりそうなんですね。よかった! すっきりしました。ずっと気になっていたので。
綿矢 あの二人は別れて、隆大は樹理恵をフッたことを後悔するんじゃないかな。うまくいかないカップルって、独特の匂いがあるんです。作品によって違うんですけど、書いていて相性みたいなのはすぐわかります。相性が悪い人たちを無理やりくっつけようと思っても無理ですね。会話が弾まなかったりして。
勝手に動き始めて止められない状態
松岡 キャラクターが勝手に動き出すということですか?
綿矢 イチもヨシカも自分のことしか見られないタイプだから。逆にニみたいな人は気持ちに余裕があるから、他人であるヨシカのこともしっかり見ることができる。そういう違うタイプの二人ならうまくいくけど、どちらも繊細だと、書いていても「あ、これは無理だな」と思っちゃうんです。
松岡 ご自身で生み出されたキャラクターならどうにでも舵を切れるんじゃないかと思うんですが、そうじゃないんですね。
綿矢 会話とか距離感の詰め方が、登場人物の性格によってまったく変わってきます。ヨシカも、途中までは自分で書いてるという感じでしたけど、「勝手にふるえてろ」って言いだしたあたりからは、勝手に動き始めて止められない状態になりました。
松岡 ヨシカが綿矢さんに乗り移っていたということですか?
綿矢 自分の潜在意識みたいなものが出てきてるのかな。演じられていてそういう瞬間ってないですか?「これはヨシカの行動じゃない」と思ったり。