恋愛に奥手で妄想力が強い24歳OL・ヨシカが、タイプの違う男性イチとニのあいだで揺れ動く綿矢氏の小説『勝手にふるえてろ』が映画化。ヨシカを演じるのは本作が映画初主演の若手最注目女優・松岡氏。対談では2人の意外な接点が明らかに。
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あんまり性格よくないし、読者に好かれないかなと思った
綿矢 『勝手にふるえてろ』映画化のお話を最初にうかがったときは脚本だけできあがっていた状態で、キャストの方までは聞いていなかったと思います。映画は原作とはまったく別のものに変わってもいいや、という気持ちでいたんですが、完成作を見たとき「ああ、大九(おおく)(明子)監督はこの小説を全部理解して台本や演出に入れてくださったんだな」と強く感じました。伝わるか伝わらないかわからないまま自分が書きたいから書いたような細かい部分まで、監督は全部理解して取り入れてくれて。さらに松岡さんが、ヨシカの女の子としての魅力をバンバン伝えてくださっていた。
松岡 ありがとうございます。
綿矢 私の中では、ヨシカは本当にさえないOLというイメージだったんです。自分で書きながら「あんまり性格よくないし、読者に好かれないかな」と思ったし、実際好き嫌いが分かれるキャラクターでした。だけど映画では、彼女のダメなところも、素直になれない女の子のちょっと守りたくなる一面として画面からにじみ出ていた。試写のあとはホクホクして帰りました。
――映画化にあたって、ここは原作のままにしてほしいというポイントはありましたか。
綿矢 基本的に映画は作る人の自由と思っていて、特に私から何か注文することはありません。逆に何も注文がない分、映画を見たときに、原作を理解してもらえるってこういうことなんだな、と気づいた。自分からの希望が何もないからこそ、ここも拾ってくれた、こういう要素も足してくれた、と新鮮な気持ちでした。小説の世界観をきちんと守ってもらったと感じましたし、とにかくうれしかったです。
――松岡さんは、原作ものに出演される際は原作は必ず読みますか。
松岡 監督が読んでほしくないという場合は、終わるまで読まないようにします。でも「読んでもいい」と言われたら、それこそ舐めまわすように全力で読みます。今回は台本を読む前にまず原作を読ませていただいて、現場でもずっとこの本を持っていました。このシーンの前ヨシカは何をしてたんだっけ、と何度も読み返したり。私にとっての教科書でした。
綿矢 ありがとうございます。そんなに大事にしてくれたなんて、びっくりだけどうれしいです。
観客みんながヨシカというカブトムシを育てている気分
松岡 原作の、感情の流れが文字で移り変わっていく感じがとても好きなので、映画でそれが成立しているかどうかが特に気になっていました。映画では大九監督が大胆にアレンジをしていて、ヨシカが歌ったりするし、これは見ていてお客さんが息切れしちゃわないかな、と不安になった部分もあって。でも完成作を見たときは、撮影から時間が経っていたこともあって、ヨシカを客観的に見られた気がします。のぞき見とは違うんですけど、ヨシカを虫かごに入れてその成長を眺めているような距離感。観客みんながヨシカというカブトムシを育てているような映画になったのではないでしょうか。
綿矢 原作は主人公目線でずっと進み、映画も基本的にはそうなんですけど、映画ではヨシカが一方的に心を寄せるオリジナルの登場人物たちが出てきますよね。彼らの存在によって、ヨシカも実は常識があって、社会の中でがんばって賢く生きているという感じが出ていました。初めはそういうアレンジに驚きましたけど、歌のシーンも含めすごく素敵な工夫だなと思います。
松岡 私は活字が大好きなので、原作がある場合、漫画にせよ本にせよ原作至上主義なんです。一方で、原作そのままに、一分の狂いもなくやるのが実写化として本当に正解なのか、という疑問もずっとあって。ルックスがそっくりとか、物語の流れが全部一緒とか、そこにこだわりすぎると再現ビデオになってしまう気がして。そういう意味で、今回の大九監督のアレンジはかなり大胆ですけど、決して変化球を狙ったものではないと思うんです。ディテールがそぐわない部分もあるでしょうが、それは原作とまっすぐに向かい合ったうえでのもの。台本を読んだときに、ヨシカの魂というか、作品の根源の部分では同じ水が流れていると感じましたし、演じるうえで不安はありませんでした。
綿矢 監督の情熱的な性格がすごく出ていてよかった。そこに松岡さんの美しさと賢さがいい感じにマッチしていて、色がさらに増えた印象です。