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綿矢りさ×松岡茉優 暴走ぎみの妄想女子に共感するのはなぜ?

映画「勝手にふるえてろ」公開記念対談#1

2017/12/28
note

女の子ってこんなめんどくさいんだ

――主人公・ヨシカという変わった人物が、読者や観客の共感を得られるかどうかは気になりますか。

綿矢 小説を書いているときはいつも「こんなこと思ってるのは自分だけなんじゃないか」という気持ちで書いています。でも、絶対伝わらないだろうなという描写ほど、意外と読者の印象に残っていたり、気持ちがわかると言ってもらえることが多い。だから『勝手にふるえてろ』でも読者を信頼して、かなり振り切ったところまで書きました。ヨシカは恋愛観が人一倍ひねくれてると思うんですけど、読者はすんなり受け入れてくれた気がしていて。共感してほしいと思って書いたわけではないけれど、普遍的なところで私もみんなとつながっているのかなと思います。

松岡 私は、この作品に関して「ここに共感した」と言ってもらえるのはすごくうれしい。ヨシカみたいに、人とお付き合いするのが苦手だったり恋愛経験がない、という女子はもちろん、毎日髪を巻いてお化粧もばっちりしてキラキラ頑張ってるような子にも、ヨシカとの共通点ってきっとあると思うんです。男性には「女の子ってこんなめんどくさいんだ」って思われるかもしれませんが(笑)。でも女子の大半ってああいう子ですよね。撮影を通してヨシカと一緒に生きた身として思うのは、ヨシカって、いろんな女の子たちの、報われなかった魂の集合体なんじゃないかと。原作者の方を前にして言うのも変ですが。

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綿矢 生霊みたい! それは結構重いですね(笑)。

松岡 はい。だからどうか皆さん報われてください、っていう。

綿矢 魂の集合体っていう言葉は衝撃的ですが、言われてみるとそれはあるかもしれない。演じられている間に寄ってきたかもしれないですね、そういう片思いの霊が。

松岡 すごく肩凝りました(笑)。もうイタコの気分。ヨシカって、ヨシカA、ヨシカB、ヨシカC、ヨシカD、みたいに全国にその分身がいると思うんです。きっと監督もヨシカABCD……のどれかに当てはまるんでしょうね。ヨシカを救いたいという思いと、ヨシカのような人を救いたいという監督の思いが溢れ出て、現場であんなに泣いていたのかな。それくらい思いが詰まっている。大九監督由来の成分がヨシカを形成して、その集合体が私を通して蒸発した感じでしょうか。

©iStock.com

そりゃイチはモテるよなと

――ヨシカがその間で揺れ動く男性キャラクター・イチとニについてはいかがですか。

松岡 不思議なことに、撮っているときはニが本当にウザくて、イライラし通しでした(笑)。特に動物園のシーンでは「もう、何なのこの人!」という感じ。でもだんだんヨシカのパーソナルなところにニが入ってくるシーンが続くうちに、「ニのことが好きかも」と思いだした。

 イチのような、こちらが一方的に憧れる存在は、誰もが一度はいた経験があるんじゃないでしょうか。私も中学校のときにいました。それは生身の人間じゃなくて漫画のキャラクターだったんですけど。でもイチは人間だから、きっと現実は想像と違うだろうし、そういう人を好きになるってつらいですよね。

綿矢 私の中でニのイメージは演じた渡辺大知さんそのままなんですけど、イチはもっと貧弱な文化系のイメージだったんです。映画(北村匠海)ではイメージ以上にかっこよくて、「ヨシカって面食いなんだな、そりゃイチはモテるよな」と。

 映画を見て思ったのは、私が考えていたよりもヨシカって魅力的なんだな、ということ。小説を発表したときは「暴走しすぎでついていけなくなった」みたいな感想もあったので、映画を見ていて、そういうところを諫めてくれるニの存在にほっとした。ニがすごくかっこよく見えて、人間関係でこういうふうに互いの凸凹がうまく合わさっていったらいいな、と実感しました。

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わたや・りさ/1984年生まれ。2001年『インストール』で文藝賞を受賞しデビュー。04年『蹴りたい背中』で芥川賞受賞(史上最年少)。12年『かわいそうだね?』で大江健三郎賞受賞。最新刊『意識のリボン』。

まつおか・まゆ/1995年生まれ。映画『桐島、部活やめるってよ』、ドラマ『あまちゃん』などで注目され、映画『ちはやふる』などで複数の新人女優賞を受賞。公開待機作に『blank13』『ちはやふる― 結び―』など。

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聞き手・構成/月永理絵
撮影/白澤正
ヘアメイク(松岡氏)/宮本愛
スタイリスト(松岡氏)/有本祐輔(7回の裏)

後編 http://bunshun.jp/articles/-/5500

勝手にふるえてろ (文春文庫)

綿矢 りさ(著)

文藝春秋
2012年8月3日 発売

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