こんなにきれいなのに、オタクっぽい
松岡 宣伝活動が始まってから、「ヨシカの口調や話し方がおもしろくて大笑いした」って何度か言ってもらったんですが、私としては笑わせるつもりは全然なかったので、「あ、笑ってもらえるんだ」と驚きました。ただもうヨシカとして真剣に、友人の来留美に反発したり、社会と戦っていたりしたつもりだったんですけど、真剣な人ほど可笑しいことってありますよね。撮影中はそこまで客観視はできなかったので、そういう感想を聞けるのはうれしいです。
綿矢 完全に意図的にあの演技をされてるのかと思っていたので、意外です。ヨシカが喋る感じも、「こんなにきれいなのに、オタクっぽい」というのが伝わってきたし、動作もとにかくおもしろい。家でひとり凹んでるときの変な姿勢とか。日常の奇怪さと、想いを寄せるイチに会いに行くためにめかしこんだときのギャップも笑えたし。ヨシカのキャラクターと周りの人たちのチャーミングな雰囲気が全編を通してにじみ出ていて、裏切らない安心感があります。ある意味、隙がない。
松岡 それは大九監督由来のものが多いかもしれないです。現場ではかなり細かい指示をされていたので。たとえば登場人物が噛むガムの種類にまでこだわっていて、ときには「これってどういう意味があるんだろう?」と思いつつ演じていました。実は今回、撮影スタッフさんがエキストラとして出演されることがあったのですが、私にもしたことがないような熱血演技指導をされていました。パワースポットでお祈りをする場面でも、エキストラで参加されたメイクさんやスタイリストさんたちに熱心に説明があり、泣く場面での指示も、「こういう背景があって、だからこの人はここに来てこんなふうに泣いてるんです」みたいに、ものすごく細かく、全部に対して目を光らせていました。監督は猫好きなんですけど、監督の考えにピタッとはまったときに、猫みたいに目がキラッと光るんです。現場では私から何かを提案しても却下されることが大半でしたが、たまに目がキラッとなると、「あ、これはハマった」とわかる。
綿矢 確かに目が光りそうな顔ですよね。
監督は暑苦しい感じはないけど、独特の一生懸命
松岡 綿矢さんから見て、大九監督ってどんな印象ですか?
綿矢 何度もお会いしてはいませんが、胸に情熱を秘めている方だと思いました。暑苦しい感じはないけど、独特の一生懸命さが映画からもすごく伝わってきて。
松岡 私はこの映画を含めて三回ご一緒させていただいてますが、いま綿矢さんがおっしゃったとおりの方だと思います。常に一生懸命。パーカーのジッパーが上がってるか下がってるか、そのぐらいのレベルのことでも「どうしよう、こうしたら見ている人にどう伝わるかな」と悩まれるんです。大九さんは今回、「とにかくやりたいことをやる」とおっしゃってたのですが、同時にずっと「どう見てもらえるか、どう受け取られるか」を意識している感じがありました。そういえば大九さんって昔芸人さんをやってらしたみたいで。
綿矢 えっ、そうなんですか。
松岡 エンターテインメント感覚が体にしみこんでいる方だと思うんです。だから、「自分のやりたいことをやりました」と言いながらも、大九さんの「誰かを救いたい」「笑顔にしたい」というサービス精神がこの映画に出ているのだろうなと思います。あと監督は、私も泣いてない場面でよく泣いていました。撮影が始まって三日ぐらいで、特に泣くシーンでもないんですけど、監督の中で何かがつながったんでしょうね。目も鼻も真っ赤にしながら「松岡さん、ここだけどさ」と近づいてこられて。
綿矢 泣きながら(笑)。
松岡 「絶対いま泣いてたでしょ」って顔で演出された。そういうところがすごく愛おしかったです。