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『蹴りたい背中』で読書感想文を書いた

『勝手にふるえてろ』(綿矢りさ)

松岡 それはありますね。でも役を演じるうえでは、「この人はこれをしない、あれをしない」という減点式の考え方じゃなくて、「これもする、これもする」という加点式のほうがきっといいんです。私はつい減点式で考えてしまうのでよく怒られます。たとえば監督に「ここは強く言ってくれ」と言われても、「いや、この人は絶対強く言わないと思う」と考えてしまったり。「絶対に言わない」ではなく、「言ってみたらどうなるか」というチャレンジをしないといけないなと思っています。今回の現場では、役のあり方に関するそういうズレはほとんどなかたですけど。何しろ監督自身がほぼヨシカだったので(笑)。

 私たち俳優は、役を生み出しているわけではなく、体現するほうなんですよね。だから、監督と私でフィフティ・フィフティでその役をつくりあげられたらいいなと思っています。綿矢さんが生み出したヨシカという人物を、私と監督がどう捉えるか。たとえれば、綿矢さんがハンバーグで、監督と私がパン。ハンバーガーみたいに二人で挟んで出来上がった、みたいな感じでしょうか。

 実は私、高校一年か二年の夏の読書感想文を、綿矢さんの『蹴りたい背中』で書いたんです。

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綿矢 そうだったんですか!

松岡茉優さん ©白澤正/文藝春秋

松岡 ちょうど本が好きになり始めた頃で、先生から勧められて読んだのが最初の出会いでした。最年少で芥川賞をとられたと知って、自分とほぼ同い年でこれを書いたなんてすごい、とびっくりして。読書感想文は花マルをもらいました。

綿矢 ああ、よかった。ありがとうございます。

切ないけど編集者に無理だと言われたら、「ああ、無理か」

松岡 活字が大好きなので、文字で世界を生み出せるってすごいなあ、とただもう感動してしまいます。私は文字を書くのってとても怖い。どう伝わるんだろう、というのが見えなくて。映像ならニュアンスも伝わりやすいのかもしれませんが、読み方って、読者が百人いたら百通りあるじゃないですか。以前コラムを書かせていただいたときは、何度書き直しても納得いかなくて。綿矢さんは、書かれている最中に「ああ、これは違う」と一から書き直すようなことはありますか。

綿矢 昔は結構ありましたね。最近は、これなら大丈夫そうかなという状態になってから書くようにしています。編み物のように初めから細かく詰めて書いていくよりも、ザクッと書いてちょっとずつ詰めていくと失敗が少ないというのに気づいてから、全部捨てることはそんなになくなりました。

松岡 でも、そんなに心血を注いで書いたものを丸ごと捨てるって切ないですね。

綿矢 自分だけじゃなくて、編集者とも話し合った末なので、もうしょうがないですね。切ないですけど、編集の方に無理だと言われたら、「ああ、無理か」と思わざるを得ない。

松岡 葬るような気持ちなんですか?

綿矢 その瞬間から、「もともと関わりがなかったんだ」という感じでパソコンの片隅に放置します(笑)。

松岡 色あせていくんですね。なんだか不思議な感覚です。自分だったら手放すのが惜しくて、どうにか使えないかと思ってしまいそう。  

綿矢 リサイクルできたらいいですけど、難しいですね。やっぱり流れというものがあるので。