80年代前半は、中森明菜の「じれったい じれったい」とイラつく『少女A』、「それでもまだ私悪くいうの……いいかげんにして!」とキレる『1/2の神話』。
「限界なんだわ 坊やイライラするわ」とイラつきをそのまんま指摘する『十戒』。
勝手な思い込みでアレコレと説教したり勘ぐったりする輩、もしくは言うだけ番長で何にもしないタイプにビシッと睨みつける。ああスッキリ!
山口百恵の3曲は阿木燿子、中森明菜の3曲は売野雅勇が作詞している。ガツンと強烈なパワーワードがありながら、怒りに至るまでのプロセスもしっかり見えるという職人技。イライラをものすごくカッコいい風で吹き飛ばしてくれる。
バブル期のストレスを歌った森高千里
人間関係でのマウントにイラついたときに効くのが森高千里の歌である。私が彼女を知ったのは1989年。ロングヘアにトサカ前髪、ミニスカというバブリーないでたちで、価値観を押し付ける輩へのアンチテーゼを歌っていた。しかもその歌詞が、アイドルらしいキラキラのオブラートに包まず、恐ろしくリアル。
ひたすら「たまる ストレスがたまる」と歌った『ストレス』。「あれこれそれあいつ いらいらするわ」と、愚痴る愚痴る。「笑顔で乗り切りましょう」なんて爽やかなオチは無い。吐き出すことが一番の解消法とばかりに「ストレスがたまる」と歌うのだ。これが写経のようなカタルシスを生み、聴いたあと心を素に戻してくれる。
『臭いものにはフタをしろ!!』では、ロックンロールについて上から目線で語ってくる男に「本でも書いたらおじさん」「私もぐりでいいのよ 好きにするわ」とバッサリ。
他にも『ミーハー』『非実力派宣言』など、お節介を吹き飛ばすワードで溢れている森高ソング。「自分でちゃんと分かったうえでやってます。しかも楽しくやってます!」という苛立ちを、ユーモアとライトな感覚でサラリ&チクリと歌い、不思議な爽快感がある。
しかし、『ストレス』『臭いものにはフタをしろ!!』を聴くと、人々がやりたい放題だったように見えたバブル期末期も、意外にストレスフルだったのだなあ、と改めて感じる。お金がモノをいい、マナー違反も続出。男女・上下格差も意外に大きく、偉そうな人は「アンタは宇宙の王様か!?」というほど偉そうで、やりたい放題の影で被害に遭っている人の怒りも相当なものだったはず。
2006年、安倍なつみが『ザ・ストレス』としてカバーしているが、二人のPVを見比べると、それぞれの時代の「ストレス」が浮かんでくる。森高バージョンはセクハラやマナー違反、安倍バージョンは、パソコンが一般普及した後の切迫感が漂っている。
やっぱり外せない『POISON』
男性アーティストの中では、事なかれ主義の大人たちへの怒りを歌詞に叩きつけた尾崎豊は代表格。聴くタイミングによっては、あらゆる不条理が目につき怒りが倍増する諸刃の剣だが、心の奥に押しこんでいた情熱が目を覚ます。
もう一つ、怒りと癒しのバランスが絶妙な『POISON ~言いたい事も言えないこんな世の中は~』を推したい。1998年の大ヒットドラマ『GTO』の主題歌で、主演の鬼塚を演じた反町隆史が歌唱し、今でも愛される一曲だ。
当時アイドル的人気を博していた反町が、出るか出ないかギリギリの低音で「ポイズン……」と歌う。これで私は「言いたいことが言えないときの悔しさ」からフッと解放されるのである。
「言いたい事も言えない世の中じゃ~OH OH♪」というスマートな歌詞でも成り立つのに、「ポイズン!」と慌てて付け足したように早口で歌うのがいい! このなんとも言えない不器用な感じが素晴らしい。「今言いたいことを言えない世の中ってどうなの?」と指摘をした直後の照れやバツの悪さみたいなものを、「ポイズン」の一言が引き受けてくれる感じがするのである。作詞は反町隆史さんご本人。グレイトである!