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「自己責任」の時代に起きた“歌詞の変化”

 この「POISON」「言いたいことも言えない」に対して、令和のアンサーソング的な歌があるらしい――。そう教えてもらって聴いたのが、BiSHの「I have no idea.」(2021年)。「いいたいことがない」。なるほどなあと感動した。「毛頭目立つつもりはないですそっとしておいて」。昭和が「怒る」としたら令和のキーワードは「一抜けた(戦わない)」かもしれない。「逃げろ」と同時に「全部自業自得でしょ」と歌うのも印象的だ。

 これらの変化は、2004年頃から流行した「自己責任」という言葉が少し関係しているようにも思う。平成の中期・後期になると、怒りをストレートに歌う曲は減っていき「耐える」もしくは「問う」になる。歌詞の多くが、「~しているか?」「~なのか?」と、問いかけ&論じる形式になっていくのである。

 特に秋元康がグループアイドルに書くメッセージソングは、ストイックで、自分に厳しい。他人に怒りを叩きつける前に「僕らは」と前置きして問題提起し、自己責任をくっつけるイメージだ。

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 聴く時の体調によっては疲れもするけれど、自分を責めているのは自分だけではない、という安心感や、一周回って「こんな世の中でも生きていく」不思議な力も湧いてくる。

 欅坂46のとぐろを巻いたような矯正への反発も、怒りと絶望を経由して、救いをもたらしていた。

 怒りは本当に付き合いが難しい感情だけど、凄まじいエネルギーであることは間違いないのだ。

「6秒ルール」はサビメドレーで!

 実は私も若かりし頃、怒りのパワーを痛感したことがある。暑さで半熱中症になり、足元がフラフラになりながら行った営業で企画を笑われ突き返された。しかしおかげで、怒りのあまり気分の悪さが吹っ飛び、「見てろよコノヤロー!」と、足取り強く鼻息荒く帰路につくことができた。

 このときのように、怒りを気力体力に昇華できれば最高である。しかしなかなか毎回うまくはいかない。だからこそ、いざ怒りが湧き上がったときに切り替える「スイッチ」が欲しい。パッとお気に入りのフレーズを口ずさみ、「歌で荒ぶる」のはいい策だと思うのである。

 アンガーマネージメントの一つとして「6秒ルール」というものがあるそうだ。怒りでカッと頭に血が上っても、とりあえず6秒我慢すれば気持ちが収まってくるのだとか。

「うっせぇうっせぇうっせぇわ」「馬鹿にしないでよ!」「いいかげんにして」「ポイズン!」「ろくなもんじゃねえ!」(ギリギリだが長渕剛も入れておきたい)。

 ああ、すっきりした……。6秒間、意外に長い。歌のサビメドレーを心の中で歌うにはピッタリの時間である。