「寂庵に来ればいいのに」と言っていた
――加えて、寂聴さんがお付き合いする方は著名人といってもスーパースタークラスが少なくないですよね。秘書として対応するのも大変だったのではないでしょうか。
瀬尾 瀬戸内がいつもよりかしこまる方には、やっぱり私も緊張しました。例えば、政治家の野中広務さんや細川護熙さん、あとは僧侶でも偉い方とかになると、瀬戸内が「あっ」とかしこまるので、私もリンクして緊張してしまうという感じで(笑)。
他にも、谷崎潤一郎、三島由紀夫、川端康成といった教科書に載っているような方々と実際に交流をしてきた瀬戸内なので、“生きる化石”ですよね。
――寂聴さんは、世間からバッシングを受けている人も寂庵に招かれていました。大麻所持で有罪判決を受けた萩原健一さんや、議員辞職直後の辻元清美さんらが身を寄せていたそうですね。
瀬尾 そのようです。「STAP細胞」の小保方晴子さんや、タレントのベッキーさんが世間から激しく糾弾されているときも心配していました。
小保方さんとは雑誌の対談でご一緒し、電話などでもお話をして。「バッシングされたって気にすることないわよ」といつも勇気づけていました。あと、瀬戸内が一緒にメディアに出ることで世間の見る目が変わることもあるので、そういった意味もあっていろんな方との対談を積極的に引き受けていたようです。
ベッキーさんとは直接交流はありませんでしたが、報道に触れるたび、「寂庵に来ればいいのに」と言っていたことを覚えています。
――世間から叩かれている人に手を差し伸べていたわけですね。寂聴さんを突き動かしていたものは何だったのでしょう。
瀬尾 瀬戸内にとっては、たとえば「STAP細胞の有無」は重要ではなくて、「社会的制裁」の方に気持ちが向いていたと思います。「世間の誰もが非難するなら、自分だけは味方でいなくては」という気持ちだったのではないでしょうか。
かつて「子宮作家」と揶揄され、文壇を追放されたこともある瀬戸内だからこそわかる部分もあったかもしれません。
――ほんの一点シミがあるだけで、人格のすべてを否定する風潮があります。
瀬尾 瀬戸内の秘書をはじめてすぐの頃、「どう見たってこれはおかしい!」と思うことがありました。私自身、正義と悪、みたいな感じで正義を振りかざしていたようなところがあって。でも、瀬戸内はそのことについて承認したんですね。
どうしても納得がいかなくて抗議したら、「すべてが白と黒ではっきり分けられるわけじゃない」と諭されました。若かったこともあってなかなか飲み込めなかったですが、今ならわかる気がします。