カンヌ国際映画祭で最高賞を受賞の『万引き家族』、フランスで撮影した『真実』に続く、是枝裕和監督の新作は、韓国を舞台にした『ベイビー・ブローカー』だ。
キャストはすべて韓国俳優であり、撮影に先立って、是枝裕和監督は交流のある韓国のポン・ジュノ監督(是枝と同じくカンヌ国際映画祭で最高賞を『パラサイト 半地下の家族』で受賞)に助言されたという。「現場はソン・ガンホのペースで進む。彼に任せておけば、大丈夫だ」と。
ソン・ガンホはポン・ジュノと組んで数多の傑作(『殺人の追憶』など)を世に出した名優だ。
「毎朝、僕が現場に着くと、ソン・ガンホがヘッドフォンを着けて、昨日僕が編集したものを見てました(笑)。そして“素晴らしかった。でも監督が採用した7テイク目より4テイク目の方が芝居がいいと思うから、もう一度検討してみて”って言うんですね(笑)。
作品を背負う役者として、納得できなかったテイクの芝居が、映画の中に残ることがどうしても嫌だという思いがあるんですよね」
是枝はソン・ガンホの要求の「7割くらい」を受け入れたという。天皇と称され現場に君臨した黒澤明監督であったら、大喧嘩した末にその俳優をクビにしていそうな話だ。
「ハハハ。で、ポン・ジュノ監督の現場でもこれやってるんですか? ってスタッフに聞いたら“やってる”って言うんですよ(笑)。
ここは真剣勝負なんでしょう。彼は最後までその姿勢を貫くんです。編集を終えて、音の作業をするためダビングルームにいたら、そこにソン・ガンホがやってきて、あるシーン(物語のクライマックスとなる重要なパート)に対して“もし可能だったら自分のセリフを、途中で切って、余韻を残した方が多分いい”ってアドバイスしてくれて……もう編集終わってるんですけどね(笑)。
でも彼の言う通りにやってみたら、その方が断然良いんです(笑)。だから切りました。彼は作品全体を見通して、なにがベストかを真剣に考えてる。だから彼を頼りにしていました」
韓国の俳優ではスタンダードなスタイルなのだろうか。