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「現場はソン・ガンホのペースで進む」是枝裕和がポン・ジュノから受けたアドバイスの“真意”

『ベイビー・ブローカー』是枝裕和監督インタビュー

2022/06/22
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ペ・ドゥナは「一度もモニターを見に来ない」

「他にソン・ガンホのような役者がいるのかわかりませんが、あの現場で言えば、刑事を演じたペ・ドゥナは現場がすべてなんです。芝居の取捨は監督にすべて任せる。一度もモニターを見に来ない。それは『空気人形』の時から変わりません。

 でも事前に一番意見交換したのはペ・ドゥナでしたね。彼女は最初の台本の翻訳のいかにも刑事然とした口調が気になったみたいです。それで日本語のオリジナル脚本と見比べながら“監督の脚本には、あるセリフの後に「……」がある。だけど翻訳の方にはなくて、こういう単語になっているんだけど、それは監督の意図した通りか?”って彼女が尋ねてくれる。
 

『ベイビー・ブローカー』でサンヒョン役を演じたソン・ガンホ ©2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED.
ペ・ドゥナ(左)はスジン役を演じた ©2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED.

 僕が、この「……」に含まれた感情について説明すると、彼女は“それだとこの韓国語にしてしまうと、その感情は消えるから、こういう韓国語にした方がいい”ってアドバイスをくれる。そういう作業をホテルのロビーで4、5時間ずっとやりました(笑)。とても有意義な時間でしたね」

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 韓国俳優陣の映画に向き合う真摯さ。それにひたむきに応える是枝のフェアネス。その下で見事に結実した本作は、国や言葉の違いを超越している。

是枝裕和(これえだ・ひろかず)1962年、東京生まれ。テレビ番組のディレクターから、ドキュメンタリー監督に、そして手がけた劇映画デビュー作『幻の光』(95)が高く評価された。2018年の『万引き家族』はカンヌのパルムドールを獲得し米アカデミー賞にもノミネートされた。

INFORMATION

『ベイビー・ブローカー』
6月24日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
©2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED
配給:ギャガ

「現場はソン・ガンホのペースで進む」是枝裕和がポン・ジュノから受けたアドバイスの“真意”

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