文芸市場の半分は「ウェブ発」の書籍が占める時代に…!? 市場縮小が進む文芸界で“ラノベ界隈”が見据える未来とは

『ウェブ小説30年史 日本の文芸の「半分」』より #2

2022/06/26

「小説」に変換する作業の負荷

 マンガ動画/YouTubeアニメとは、チャンネル登録者数215万人のYouTubeチャンネル「フェルミ研究所」がオリジナルのカラーマンガを、セリフに声をあてて制作した動画の演出法を2018年に確立して以降、新たな表現形式として一般化したものだ。

『クラスの大嫌いな女子と結婚することになった。』はチャンネル登録者数63万人の「漫画エンジェルネコオカ」で2020年3月に投稿された、第1話が365万回再生を突破した同名の人気シリーズをラノベ化したものだ。

 2022年現在、もっともラノベ読者から支持されているのは『義妹生活』だろう。

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 これは元の動画からしてノベルゲームやスマホゲームのシナリオパートのような、キャラクターの立ち絵+画面下部にフキダシを表示して会話で展開していくものであり、「アニメ・マンガ動画」と謳っている。

 三河ごーすとはもともとラノベ作家だったために内容的にも(また、イラストを手がけたHitenの絵柄的にも)ラノベ読者、YouTubeの視聴者層双方に好まれるラブコメだったことが大きかったと思われる。

 ラノベではないが、YouTube発の小説という意味では、これらに半年ほど先行して、小学生に人気のホラーチャンネル「クロネコの部屋」(2018年開設、チャンネル登録者数約46万)から生まれた、原著クロネコの部屋、著・一夜月夜・天乃聖樹・高橋佐理『ミステリー案内人さんのコワイハナシ』(KADOKAWA)シリーズの小説第1弾が2020年6月に刊行されている(なお、これを手がけたのはフロンティアワークスにてMFブックスやアリアンローズを立ち上げたのちKADOKAWAに転職[2021年に独立]した編集者・堤由惟である)。

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 動画では1本数分の短い怪談やホラーが語られ、最初と最後に魔女の格好をした「ミステリー案内人さん」とガイコツの「骨江」の会話が差し挟まれるが、小説でもこのスタイルを踏襲し、朝読需要を見越した短編集形式で作られている。

 YouTube発では、やはりラノベではないが2021年7月に刊行された、奇妙な間取りの家の謎を追った不動産ホラーミステリー小説・雨穴『変な家』(飛鳥新社)もヒットしている(ウェブ発ホラーでのヒット作としては、YouTubeではなくカクヨム連載だが、2018年に投稿開始、2020年夏にTwitter上で反響を呼び、2021年4月に幻冬舎より書籍化された芦花公園『ほねがらみ』がある)。

 2021年には、にゃんたこなど何人かのYouTuberが書籍書き下ろしで小説を発表してもいるが、特別ヒットしたものはない。

 YouTubeは非常にユーザー数の多いプラットフォームであり、ストーリーもののヒットが今後も期待される。

 ただしウェブ小説サイトに掲載された小説を本にするのに比べて、まず「動画」(映像)を作るにも、それを「小説」に変換する作業にも作り手に大きな負荷がかかる。

 また、動画でウケるものが小説としてウケるとは限らない。さらに、暇つぶしで流し見しているだけのYouTube動画に対しては書籍を買うほどロイヤルティが高くない人も多い、といった課題はある。