出版取次大手日本出版販売株式会社が発表した調査によると、2010年の売上を100としたときの文芸市場の売上は2021年には46.4。市場規模の縮小が恐ろしいスピードで進行している。そんな中、“ウェブ発”の書籍は文芸市場の「半分」を占めるようになるほどジャンルとして成熟した。はたして、日本の文芸界において“ウェブ発”の書籍は今後どのような成長を見せるのか。

 ここではライターの飯田一史氏の著書『ウェブ小説30年史 日本の文芸の「半分」』(星海社新書)より一部を抜粋。紙発とウェブ発の書籍それぞれを対比して見えてきた文芸市場の現在、そして未来について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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なろう系・ラノベの動き

「出版月報」2021年9月号によれば、文芸単行本全体に占めるウェブ発のラノベ単行本の割合は冊数ベースで43.7%、金額ベースで37.2%に及ぶ。つまりウェブ発のライトノベルジャンル以外の小説(ホラー、ライト文芸など)を含め、また、刊行形態も単行本に限らず文庫や新書(児童文庫)まで含めれば、おそらく日本の文芸市場のおよそ「半分」はウェブ発の書籍が占めている(*1)。そしてこの数字には当然ウェブ小説投稿サイトの売上は含まれていないが、エブリスタと「小説家になろう」運営のヒナプロジェクトの2021年度の売上を足すだけで20億円程度ある。作品数や閲覧数に目を向ければウェブ小説の方が紙の小説よりも多い。

*1 「出版月報」2021年9月号、5頁

 また、日販 営業推進室 出版流通学院『出版販売額の実態2021』掲載のグラフによれば、2010年の売上を100としたときの文芸市場の売上は46.4(*2)。

*2 日販 営業推進室 出版流通学院『出版販売額の実態2021』日本出版販売株式会社、2021年、15頁。グラフの出典も同頁

 

 つまりウェブ小説書籍化は、2010年代を通じて「半分」以下になった文芸市場の「半分」を占めた――ウェブ小説以外の文芸市場の規模は10年で4分の1になったことになる。

 一方でウェブ小説サイト運営とそこからの書籍化事業を核とするアルファポリスやスターツ出版は2021年度決算で過去最高の売上・営業利益を更新した。なお、小説家になろうを運営するヒナプロジェクトの売上は2012年度から2021年度のあいだで約13倍になっている。これが現実だ。 

 市場のシュリンクに抗うように成長してきたウェブ小説書籍化作品群が存在していなければ、文芸市場はより壊滅的にしぼんでいただろう。

 1990年代にはパソ通やインターネットは「限られた人たちの楽しみ」だと語られていたが(榎本正樹『電子文学論』『文学するコンピュータ』。総務省情報通信白書によれば1995年時点で全人口に占めるパソ通利用者の割合は約3%)、ジャンルによっては今や初版3、4000部も珍しくなくなった紙発の小説単行本のほうがネットよりも「限られた人たちの楽しみ」になっている。

 注意を促しておきたいが、ウェブ発以外の文芸の凋落は、ウェブ小説のせいではない。

 少子高齢化に伴う人口減少や可処分所得の停滞といった抗えないマクロ環境要因もあるし、ネットやスマホの普及といったテクノロジーがもたらしたコンテンツ消費のスタイル変化に対する不作為による自滅という面もある。

 あくまで紙発とウェブ発を「対比」的に見ていくことで得られる示唆が重要なのであって、両者を「対立」的に理解するべきではない。

 紙の雑誌・書籍と電子書籍だけでは文芸市場の減少を止めることはできず、ウェブも積極的に活用しなければ現状維持も不可能だ。V字回復するためには既存の流通制度を前提として「ヒット作」「ヒット作家」を作るだけでは足らず、時代に合ったかたちで読者に作品を届け、売るための新たな「しくみ」(ビジネスモデル+組織体制)を作ることが必須である。