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文芸市場の半分は「ウェブ発」の書籍が占める時代に…!? 市場縮小が進む文芸界で“ラノベ界隈”が見据える未来とは

『ウェブ小説30年史 日本の文芸の「半分」』より #2

2022/06/26
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やる夫スレ書籍化の変遷

 新規の投稿サイトではなく「ウェブ小説書籍化」の試みに目を向けると、2019年には、やる夫スレ書籍化とVTuber小説、2020年にはマンガ動画/YouTube小説が登場した。

 2014年1月から2ちゃんねる(現5ちゃんねる)のやる夫スレ上に連載するのと並行して書かれた小説を新人賞に投稿して書籍化され大ヒットとなった蝸牛くも『ゴブリンスレイヤー』(GA文庫、2016年2月刊行開始、TVアニメ2018年10月期放送)に続けと、2019年9月から10月にかけてやる夫スレ発の4作品がKADOKAWAからラノベとして単行本または文庫で書籍化された。

 荻原数馬『クレイジー・キッチン』(原題「やらないキッチン」、カドカワBOOKS)、間孝史『朝比奈若葉と○○な彼氏』(原題「翠星石と白饅頭な彼氏」、MF文庫J)、ハイヌミ『君は死ねない灰かぶりの魔女』(原題「白頭と灰かぶりの魔女」、カドカワBOOKS)、川田両悟『アキトはカードを引くようです』(原題「やる夫はカードを引くようです」、MF文庫J)の4作だ。

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 やる夫スレは「やる夫達は戦後の裏舞台を戦い抜くようです」の作者・坂上泉が『インビジブル』で第164回直木賞の候補になるなど、才能を輩出してきた場所である。2009年7月に『やる夫 1 お仕事・業界編』(ワニブックス)として初の書籍化がなされた際には、掲示板サイト上に描かれたものそのままにAA(アスキーアート。文字や記号を使った視覚的な表現)を本に収めていた。

 だが2019年版のやる夫スレ書籍化では、AAを用いず文字で小説として改稿している。

 さらに、やる夫スレでは有名なアニメやマンガ、ゲームのキャラクターが縦横無尽に登場し、やる夫ややらない夫など2ちゃんねる上で生み出されたキャラとともに物語を構成する二次創作であることが特徴だが、この小説版ではキャラクター名はすべてオリジナルのものに変更された。

 いずれも良作ではあったものの、やる夫スレ(というより5ちゃん的な掲示板文化)の最盛期は遠く過ぎ去ったあとだった。書籍化に対する注目は限定的で、続く動きもほとんど現れなかった。死んだプラットフォームからヒットを出すことは難しく、それを続けるとなるとさらに困難だ。

 また、2019年4月には、VTuber小説が2冊同時に刊行されている。

 バーチャルYouTuberまたはVTuberとは、セルルック(2Dアニメ風)3DCGや2Dイラストで構成されたキャラクターの外見をまとい、「生徒会長で美術部員」といった基本設定を持つ、YouTubeのような動画配信サービスや各種生放送配信サービスで活動する人々のことである。