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地獄の日々を乗り越えて…阪神・才木浩人、復活を支えた母との3年間の物語

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/07/12
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いつも通りの笑顔で、最後まで息子の背中を押し続けた

 事実、右肘痛発症から手術までの期間は才木本人にとって地獄のような日々だった。ボールすら握れない時間も長く「部屋で1人で沈んで。だから部屋にいたら頭がおかしくなりそうだった」とトレーニングルームにこもったことも珍しくない。

 休日も練習や治療のスケジュールを詰め込み、部屋にいる時間を極力減らして考え込む時間を意図的に削った。

 唯一、自室で日課にしていたのがYouTubeで見るアニメの名言集。「確実に病んでました……」と今は苦笑いで振り返れるが、心身は確実に蝕まれていた。

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 そんな状況でも周囲には落ち込む様子は一切見せてこなかったが手術を終えて育成契約に切り替わった時だけは違った。本人から母へ後ろ向きに感じられるLINEが送られてくると、久子さんは既読をつけるや否や返信した。「クビになったわけじゃないやん。また復活したらええやん!」。ここでも同情することなく背中を押していた。

 一度は付けていた背番号35を取り戻し、3年ぶりに帰ってきたマウンドで躍動する才木を、久子さんは普段と変わらず一喜一憂しながら目で追っていた。緊張はしていたものの、それはプロ入りしてからずっと一緒だ。

「手術から復活して一軍に戻ってきて感慨深いとかじゃなくて、前に一軍で投げてた時に見てた感覚と全く同じでしたね。とにかくストライク取って~。この1球!1球!という感じでした」

 必ず帰ってくると信じていたからこそ、久子さんは涙ではなく、いつも通りの笑顔で迎えた。長く険しくても変わらなかった親子の「距離」。母が信じた1勝を、息子が現実のものとした。

 

【虎番13年“チャリコ遠藤”のタイガース豆知識】
 今季からキャプテンを務める坂本誠志郎はチームきってのメジャーリーグ通。キャッチャーとあって、メジャー捕手のフレーミングなどを映像で研究しており、ブレーブスなどで活躍したフラワーズ捕手の技術に舌を巻いていた。そして、今年の推しチームはブライス・ハーパーらを擁するフィリーズ。現在は地区3位だが「絶対に上がってきますよ」と予言している。

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