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大手企業の内定を辞退して巨人にテスト入団 “最底辺”の育成選手が驚いた菅野智之、坂本勇人の言葉

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/07/12

育成選手に意見を求める坂本勇人

 菅野さんが調整登板した実戦形式のマウンドでも、バッテリーを組ませてもらう機会がありました。練習後、菅野さんは僕にこんな言葉をかけてくださいました。

「配球もテンポも小山が一番よかったよ。早く1軍に来てくれよ」

 そもそも1軍はおろか、僕は育成選手なのに……と思わずにはいられませんでしたが、菅野さんの言葉は大きな自信になりました。その後、ファームディレクターの方が僕を視察にきてくれました。後で聞いたところ、菅野さんが「支配下にしたほうがいい」と推薦してくれていたと知り、ますます恐縮しました。

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 野手では坂本さんもお世話になった大先輩でした。坂本さんが脇腹を痛めてファームで調整に来られた時、僕は「こんなチャンスはない!」とばかりに坂本さんに話しかけました。

「小山翔平という育成選手です。こういう悩みがあるんですけど、坂本さんはどう思いますか?」

 こちらは失うもののない育成選手ですから、臆することなく向かっていきました。そんな姿勢を坂本さんは「若手はそうでなきゃダメだよ」と買ってくれました。

 坂本さんの凄さは、僕のような実績も技術もない人間に「どういう意識で打ってる?」「どんなトレーニングしてる?」と平気で質問してくることです。僕を育てるために聞いてくれたのかもしれませんが、坂本さんほどの超一流選手でも「もっとうまくなりたい」と貪欲に探求しているのだと知りました。

 育成選手だからと言って、差別的な扱いを受けたことも嫌な思いをしたこともありません。素晴らしい先輩、仲間、指導者の方々との出会いがありました。とくに3年目は春先のキャンプから少しずつ結果が出始めて、手応えがありました。

 それでも、僕はいつも大事な時期にケガをしていました。自分自身が情けなく、もどかしくなりました。大学時代にもっと練習していれば。試合に出られなくても、もっとやれることがあったのでは……。そんな後悔ばかりが募りました。

「お前を支配下に上げようという話があった」

 プロ3年目、2020年の秋。僕は宮崎で行なわれるフェニックス・リーグのメンバーに入っていました。でも、球団関係者から内々に「今年限りで戦力外だ」と聞かされていました。

 クビになるとわかっているのに、来季に向けた戦いに身を投じなければならない。気持ちを奮い立たせたつもりでも、どこか身が入ってなかったのでしょう。僕は村田修一コーチから叱責を受けました。

「シーズン中は『出してくれ』とベンチでアピールしてるのに、なんで今日は代打のチャンスもあったのに準備してへんねん!」

 試合後、僕の様子がおかしいと思ったのか、村田コーチ、杉内俊哉コーチ、實松一成コーチが僕に声をかけてくれました。お三方から「お前らしくないぞ」「絶対に何かあったろ」と問われ、観念して今年限りでクビになることを伝えました。すると村田コーチは「そうなんか……」と絶句した後、こんな話をしてくれました。

「実は今年、お前を支配下に上げようという話があったんだ。その時期にコロナ禍になったり、紅白戦で原(辰徳)さんが最終チェックするタイミングでお前がケガしたりで風向きが変わったんだ」

 そこまで高い評価をいただいていたとは知らず、僕はうれしいやら悔しいやら複雑な思いを噛み締めました。僕にはあと一歩、プロで戦うための実力が足りなかったということなのでしょう。

 結果的に、僕はプロの世界で何も成し遂げられないままユニホームを脱ぎました。今は一人の巨人ファンに戻り、チームの勝敗に日々一喜一憂しています。

 それでも、社会人として生きる僕にとって、プロでの3年間は血となり肉となり自分の生活を支えてくれています。阿部コーチや村田コーチが口酸っぱく言っていた「8割は準備で決まる」という言葉は、今も仕事をする時に胸に刻んでいます。

 僕には新たな夢があります。近いうちに起業し、大きな企業に成長させてプロ球団を持つという夢です。僕は死ぬまでに叶えたいと考えています。

 底辺のプロ野球選手だったとはいえ、読売ジャイアンツという素晴らしい球団でプレーできたことは僕にとって誇りです。そして、「いずれはジャイアンツと戦いたい」という希望を胸に、自分の夢を追っていきます。

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