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何とか田中投手を勝たせようというチームの結束力

 今年5月、ファームで田中投手が初勝利をあげたニュースが入って来た。1軍2軍・通算56試合目での白星。準備が整ってきている様子が伝わってきた。こんなに勝てなかったのはツキの悪さもある、なら逆に考えれば今こそ大きな流れが向いてきたということ。すぐに2勝目も掴みその日は想像より早くやって来た。7月1日、再び支配下登録。会見では「7月7日に投げてもらいます」とBIGBOSSからのサプライズまでプレゼントされた。

 田中投手にはオフに志願して自主トレも一緒にした先輩がいる、上沢直之投手だ。今回の千葉での初先発には事前にこんなアドバイスがあったという。

「一軍のバッターはみんないい。怖いけれど打たれたら自分の仕事が失われる。そういう世界に僕たちは生きている。自分がやられるくらいなら相手をやっつけるという思いが大事なんだ」

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 もう後がない田中投手には響いた言葉だと思う。同時に、勝負の世界に生きる人はこんな風に試合に向かっているんだと改めて感じた。応援する側もこの覚悟は忘れてはいけない。

 田中投手はランナーを出しながらもとにかくテンポよく投げた。バッテリーを組んだ石川亮選手はワンバウンドも良く止めたし、後輩を鼓舞しながらいいリードをしていた。

 先制点は清宮選手のホームラン。同期の2人はベンチで抱き合った。

 敵地のスタンドには応援グッズの「田中瑛斗」と書かれた名前入りのタオルが時折見えた。

 そのほとんどが今年のバージョンではなかった。過去に発売されたものがあちこちで揺れていて、この時を待っていたファンの5年も見える気がした。

 勝ち投手の権利を手にしてあがった6回のマウンド、先頭バッターにフォアボール。ファーストから清宮選手が声をかけにいく。何を話しただろう、あそこは同期の声が心強かったと思う。その後をしっかり抑え降板。ほっとしたのか、マリーンズの佐々木千隼投手の登場曲「It’s My Life」を口ずさむ姿にこちらも口元を緩める。

 試合が終わるまでベンチではずっと一番前で応援をしていた。郡選手のタイムリーではベンチから飛び出しそうな勢いで喜ぶ。ファームで切磋琢磨してきた先輩だ。郡選手のコメントは「なんとか瑛斗に勝ちを! 魂!」。この日のタイムリーコメントには何とか田中投手を勝たせようというチームの結束力を感じた。

 ひとつ後輩の野村選手のコメントはこうだ。「打たなきゃ選手としての価値がないので必死でいきました」。自分の先発する試合で、こんなこと言われたら嬉しくてたまらないだろう。私なら一生ご飯奢る。

 試合終了。ウイニングボールは同期の清宮選手から「おめでとう」の言葉と共に。そのボールは大分から応援に来ていたお父さんにすぐに渡された。

 田中投手は7月7日の七夕に77球で初勝利をあげた。2017年、あの年のドラフトで入団したのは7人だった。1軍、2軍、育成、チームから離れた選手も既に2人いる。きっとあの夜はそれぞれの場所にいながら同期の初勝利を気持ちをひとつに喜んだだろう。実は北海道では8月7日に七夕をする地域も多い。その日は京セラドームで試合がある。「エイト」の七夕には何が起きるだろう。

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