気が付けば鼻のことばかり思う3週間だった。

 交流戦前にデッドボールで骨折していた野村佑希選手の鼻のことだ。折れていても野村選手は試合に出続けたし、本人も無理している様子は全くなかった。だから余計な心配とわかってはいたけれど、気になって仕方がなかった。鼻骨骨折って野球選手にとってどんなものなんだろうか、と。野球選手の強さとはどれだけ果てしないのか、と。

 おそらく、いやもう確実に彼の鼻は完治しているのだろう。聞けば、鼻の骨折はすぐに適切な処置をすれば軽ければ2週間くらいで治癒するそうだ。あれは5月17日のことだから、もうすぐ1か月。場所はほっともっとフィールド神戸だった。

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野村佑希 ©時事通信社

なかなか「そうですか、わかりました」と納得できない私

 4回表のファイターズの攻撃、打席には野村選手、バファローズ先発・山岡投手のボールが高く浮いた。まずはヘルメットの先に当たり、砕け、そこから跳ね返ったボールは野村選手の顔に当たった。

 鼻を抑えて倒れこんだ野村選手の掌の端から血が見えた。すぐに担架が運び込まれ場内は騒然となった。でも、野村選手は自分で立ち支えられることもなくベンチに向かった。

 その後は交代、神戸市内の病院へ。試合後のBIGBOSSは「あれは多分折れてるかもね、血が止まらなかったし」と話した。想像しながら、自分の鼻の付け根を強くつまんでぐいぐい動かしてみた。もうこれだけで充分痛いのだから折れているのなら、この先いつまで試合に出られないんだろうかとため息をついた。でもBOSSの話はこう続くのだ。

「鼻は出られますよ、今まで何人もそういう選手いたし、きっと本人が出たいって言うんじゃない?」

 まさかこんな時までBIGBOSSは冗談を……とその夜は思っていた。それが、次の日。鼻骨骨折と診断された野村選手は普通に練習に現れた。フェイスガードもせずに特に傷もないいつも通りの素顔だった。

 前夜にBIGBOSSが話した通り、鼻の骨折はプレーにはそれほど影響はない。野球選手として気にするのは痛みではなくむしろメンタルだという。

 顔付近に死球を受けた選手は、その時のインパクトでその後に打席に立つと向かってくるボールが今までよりも何倍も大きく見えてしまう。当然のように「また当たるかもしれない」という恐怖心も付きまとう。そのどちらも払拭する為には、時間を置かずになるべく早く、それも1打席でも多く立った方がいいそうだ。

「なるほど」とは思っても、痛さを考えればなかなか「そうですか、わかりました」と納得できない私。骨折翌日の野村選手は前日と変わらず4番で出場、マルチヒットでその日の勝利に貢献した。