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そういえば野村選手は強いんだったと思い出した3年前のこと

 そして移動日を挟んで北海道に戻ってきた5月20日のライオンズ戦も4番サードでスタメン。私はしつこい。試合前、HBCラジオの解説、鶴岡慎也さんに「痛みは大丈夫なのか」という内容の質問をした。鶴岡さんは現役の2011年、顔面に自打球を当てて、陥没骨折という経験がある。

「プレーには影響ないです。でもまた当たるんじゃないかって思ってしまうから相当怖いんですよ。すごく勇気が必要なんです」

 やっぱりこの答えなのだ。痛みよりも、恐怖心を根付かせないことの方が重要。鶴岡さんはこうも言った。

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「こういった経験は、選手として成長するスピードがあがると思います」

 この言葉を聞いた時に、ああ、そういえば野村選手は強いんだったと3年前を思い出した。

 名門・花咲徳栄高校から入団した1年目の2019年、高校通算58本塁打の野村選手には打撃面で大きく期待がかかっていた。でもそれは将来的にということで、高卒の選手に即戦力としてのプレッシャーはなかったと思う。

 でも本人も自分のアピールポイントが長打力だということをもちろん自覚しているから、知らず知らずのうちに慣れない環境で結果を急いでしまったのかもしれない。8月に左股関節亜脱臼というけがをする。既に重傷で手術をし全治には5か月、ほとんど体を動かすことが出来ない時間を過ごした。

 そして復帰、元に戻れるのかという周りの不安をよそに、野村選手のスイングは逆にそれまでの迷いのようなものがなくなったのかスピードまでアップしたそうだ。

 その後も、2020年は右手小指の骨折、3年目の去年は左ひざの打撲で戦列を離れるもシーズンを終了してみればキャリアアップを果たす。

 今季だってキャンプ中の左足の負傷で出遅れはしたものの4月5日に登録されてからはスタメン出場が続き、そして鼻骨骨折してからはもっともっと順調!に見えてしまうのだから、体もメンタルもなんて強い選手なのかとスケールの大きさを感じる。

 準備や努力の積み重ねは大切だ。時に立ちはだかるアクシデント。準備や努力をきちんとしている人は、慌てずそれに対応する術もそこで培っているのだと私は思う。成功に近道なんてないけれど、そこに辿り着く為の速度は自分であげることが出来る。またひとりの選手が大スターになる過程にいま私たちは立ち会っている。“ファン” に “宝物”が増えていく。

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