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鳥と人の関係をひも解くと…「鳥類の研究は今後も続けていきたい」それでも紀宮さまの退職のご決心が固かった理由

『日本書紀の鳥』山岸哲さんインタビュー

2022/06/29
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 秋篠宮さまが総裁を務め、ご結婚前には紀宮さま(現・黒田清子さん)の勤務先でもあった、山階鳥類研究所の元所長・山岸哲さん(83)が『日本書紀の鳥』(京都大学学術出版会)を出版した。神代から持統天皇の時代までを扱った『日本書紀』には、実は多くの鳥が登場し、さらに現在の皇室には鳥類の研究に取り組まれる方が少なくない。その両者をつなぐようにして「現代の『日本書紀』を目指した」という山岸さんに、話を伺った。

2005年3月、山階鳥類研究所に入られる紀宮さま(当時) ©時事通信社

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「現代の『日本書紀』を目指してみたい」

――『日本書紀の鳥』では、山岸さんならではの鳥類学の立場から『日本書紀』における鳥類の描かれ方や、種にまつわる様々なエピソードが紹介されています。そもそも、なぜ今『日本書紀』なのでしょうか。

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山岸哲さん(以下、山岸) 私自身のきっかけとしては、県立長野北高校(現・長野高校)というのが母校でして。現在は長野県長野市の「桜泉苑」と名付けた自宅で隠遁暮らしをしています。高校が同窓の宮澤豊穂さんが手がけた『日本書紀全訳』(ほおずき書籍)を知人からもらって、ぱらぱらと読んでいったところ、たくさんの鳥が出てくるんですよ。そこで「『日本書紀』の鳥だけを取り上げて1冊本ができないかな」と。

 宮澤さんにリストアップしてもらったところ、全部で34種あったんです。八咫烏(カラス)、白鳥(ハクチョウ/コウノトリ)、桃鳥(トキ)、鴨(カモ)、百舌鳥(モズ)、巫鳥(ホオジロ)……自分が研究や保全で関わった鳥が『日本書紀』には数多く登場していました。「借り物の話ではなく、自分の言葉で書けそうだ」というちょっと変な自信が出てきました(笑)。さらにご縁だなと思ったのが金鵄(トビ)。今回の本の共著者である宮澤さんと私ふたりの母校の校章にあしらわれているのです。

『日本書紀の鳥』(京都大学学術出版会)

山階鳥類研究所と皇室のゆかり

――「謝辞」には「執筆にあたり、以下の方々に原稿を読んでいただき、貴重なご意見を賜り、また資料をご提供いただいた。記してお礼を申し上げる」として、多くの研究者の方々の中に秋篠宮さまや黒田清子さん、常陸宮さま、高円宮妃久子さまのお名前が記されています。

山岸 そうなのです。『日本書紀』には、皇族方が研究されてきた鳥の記述が多いと気がついたことも、執筆の大きな後押しとなりました。山階鳥類研究所の総裁を務めておられる皇嗣の秋篠宮殿下は鶏の系譜の研究で博士号を取得され、妹の黒田清子さんは、山階鳥類研究所の研究員をしていた時に、翡翠(カワセミ)の繁殖・生態を研究されました。

 常陸宮殿下は兄の上皇陛下と同じく動物学者で、日本鳥類保護連盟の総裁をされていますし、高円宮妃久子殿下も大変な鳥好きで、鳥類保護の世界組織「Bird Life International」の名誉総裁をされています。妃殿下が撮影された鳥の写真は躍動感にあふれ、その腕前は相当のものです。

 奈良時代に編纂された『日本書紀』は、当時の天皇によって作成を命じられた国家の大事業であり、皇室や各氏族の歴史上での位置づけを試みるものでもありました。そうであるならば、皇族方の鳥類研究について紹介することで「現代の『日本書紀』を目指してみたい」と思って、この本をコロナ禍の足掛け2年で書き上げました。

――皇室と鳥の関わりというと、山岸さんが2002年から2010年まで所長を務められた山階鳥類研究所は、1986年に秋篠宮さまを総裁に、2004年には島津久永氏を理事長(現顧問)に迎え、1992年から2005年までは紀宮さまが勤務されました(学習院大学卒業後の92年4月から非常勤研究助手、98年4月からは非常勤研究員)。なぜこれほど皇室と研究所のゆかりは深いのでしょうか。