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――天皇皇后両陛下の長女・愛子さまは昨年12月に成年を迎えられ、黒田清子さんから借りられたティアラをお召しになったことが話題になりました。

 学習院大学文学部日本語日本文学科の3年生である愛子さまが、卒業後にどのような道へ進まれるかはわかりませんが、今後はご公務や国際親善とともに、私的な活動としてご研究を進められたり、どちらかへ勤務されることがあるかもしれません。山岸さんは、内親王が仕事をもつということをどのように捉えていますか。

紀宮さまの研究所での日々

山岸 やはり愛子さまも同じように、ご自身の興味関心をのばしてライフワークにつながるようなご活動をしていただきたいと思いますね。千葉県我孫子市にある山階のように、少し世の中から離れたような環境でお仕事ができるところは少ないかもしれませんが、探せばないわけではないでしょうから。

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 紀宮さまは研究所でごく普通に過ごされていて、所員と同じようにお茶の用意をしたり、会議の机や椅子を並べたり、歓迎会や送別会、たまに行っていた暑気払いなどのコンパにも準備から参加されていました。お酒はかなりお強いと所員からは聞いたこともあるのですが、私は、そんなにお飲みになるところを見たことはありませんでした。しかし、畏れ多いことに、一升瓶でお酒をついでいただいたことはありますよ。

山岸さんの所長就任のお祝いで、お酒をついでおられる紀宮さま(当時、写真は山階鳥類研究所提供)

――美智子さまが紀宮さまについて、何か失敗などをされた時に、「『ドンマーイン』とのどかに言ってくれる子どもでした」と述べられたことがありますが、山岸さんや所員の方に対して、フォローの言葉やちょっとした冗談をおっしゃるようなことは……?

山岸 紀宮さまが? うーん、私とは冗談を言い合ったことってないですよね。お話をするのは、真面目な話とか論文作成のご相談とかそういう時ですから、「ドンマーイン」とはおっしゃらなかった(笑)。

 ただ、示唆に富んだ助言をいただくことは今でもありますよ。今回の本につながる話でもあります。学習院女子高等科では、[「万葉集」におけるホトトギス考]というテーマで卒業レポートを書いたそうなのですが、その際に参考にしたという、動物生態学者の東光治氏が1935年に著した『萬葉動物考』という書籍があると教えていただきました。そこから、最終章で書いた『日本書紀』と「万葉集」の比較へと論を展開することができたのです。

 今では、スマートフォンに向かって、鳥の名前を言えば、画像はすぐに見られるし、鳴き声すら簡単に聞くことができますよね。けれども、その姿や生態は学べても、歴史の中での鳥と人の関係や、鳥に込められた社会的意味などはあまり知られていない。なぜ古代の日本人がこれほど鳥を史書の中に登場させたのか。……あ、庭にシジュウカラが来た。とくに朝、鳥がよく来るんですよ。

――あっ、お庭の池のあたりにとまっていますね。

山岸 きっと水浴びに来たんですよ。かわいらしいですね。シジュウカラみたいに、現代でも私たちにとって身近でよく知られた鶯(ウグイス)や杜鵑(ホトトギス)が、「万葉集」では頻繁に歌われるのに『日本書紀』には出てこないんです。このことは最初に気がついていたんですけれども、どうしてかはまったくわかりませんでした。この“謎解き”については、最終章「古代の政治と鳥」で、私なりの考察をまとめることができました。

 文系向きの読者の方に鳥類の生態や社会を知っていただいたり、あるいは理系の専門家の方々が鳥を入り口に『日本書紀』や古代の人たちの暮らしや自然認識に興味を持っていただけたら、とてもうれしく思います。

日本書紀の鳥 (学術選書 104)

山岸 哲 ,宮澤 豊穂

京都大学学術出版会

2022年5月16日 発売