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鳥と人の関係をひも解くと…「鳥類の研究は今後も続けていきたい」それでも紀宮さまの退職のご決心が固かった理由

『日本書紀の鳥』山岸哲さんインタビュー

2022/06/29

“一般庶民”がはじめて所長に

山岸 山階鳥類研究所は国内唯一の鳥類専門の民間学術研究所で、その前身は1932年に山階芳麿侯爵が渋谷区の私邸内に建てた鳥類標本館です。山階さんというのは、お母さまを通じた昭和天皇のいとこであられて、昭和天皇とは子どもの頃に相撲をとったりした、そういう間柄だったそうです。ですから、当初は山階さんの私的な研究所のような立ち位置から始まって、研究所内には皇室やお殿さまに関わりのある方がずいぶん多かったように思います。かつての学習院のような雰囲気があったのかもしれないですね。

 だから私のような一般庶民が所長になったのは、はじめて(笑)。私が3代目で、4代目が国立科学博物館の前館長の林良博さん、そして現在は情報人類学・人間動物関係学が専門の奥野卓司所長です。これからはそのような研究者たちがバトンをつないでいくのだと思いますが、私は意識的に、山階鳥類研究所を外に対して開いていく「窓」のような仕事に力を入れていました。

紀宮さまの婚約内定発表で取材が…

――2004年12月、ちょうど紀宮さまと黒田慶樹さんの婚約内定発表の頃に、研究所や所長である山岸さんのところへ取材が殺到したそうですね。

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山岸 それまでは皆さん、紀宮さまが週に2日通われる研究所で何をなさっているのか、秋篠宮殿下が総裁としてどのように尽力されてきたのか知らなかったでしょう。雑誌への寄稿やインタビューを通して、「山階鳥類研究所が日頃どのようなことをしていて、その中で紀宮さまのお仕事はどのような役割を果たしているのか」を一般の方に知っていただくことは、先ほどお話ししたような意味も込めて重要な側面であると思っていました。

2005年11月15日、結婚式の後、記者会見に臨んだ黒田慶樹さん・清子さん ©JMPA

――研究所にいらした頃の紀宮さまは、主に皇居でのカワセミのご研究と19世紀を代表する鳥類画家、ジョン・グールドの『鳥類図譜』のご研究に取り組まれていたそうですね。

山岸 紀宮さまは2005年11月のご結婚を機に退職されましたが、その2つのご研究については、『ジョン・グールド鳥類図譜総覧』(玉川大学出版部)のご出版、論文「皇居と赤坂御用地におけるカワセミの繁殖状況」(「山階鳥類研究所研究報告」創刊50周年記念号)にまとめられています。

 特にカワセミのご研究については、12年にわたって個体識別のリングをつけて継続観察された結果に、重いものがあると思います。紀宮さまはとても素直な方で、かつ、きちんとした自己主張をお持ちです。感銘を受けたのは、皇居のカワセミが最も遠いところでは24キロも離れた清瀬市の金山緑地公園に現れ、大都会の中心にある皇居が決して孤立した環境ではなく、周りと見事につながっているのを証明されたということ。

2004年4月、吹上御苑でバードウォッチングをされる紀宮さま(当時) 宮内庁提供

 私はある年の紀宮さまのお誕生日の茶会に際した祝辞で、こう述べたことがあります。

「論文作成の過程で、失礼ながら図表の書き直しを含め、たくさんの問題点や修正点をご指摘させていただきましたが、それらのすべてに、すばやく反応され、ご自分の納得できる点は修正され、ご自分が納得できない点は『これこれこうだから、所長のおっしゃることは違うのではないでしょうか』ときっぱりと反論されたことが私の印象に強く残っております。素直さと同時に、芯のお強い面がうかがわれ、科学者としてもっとも大切な資質をお持ちのようにお見受けいたしました」

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