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――天皇以外のキャラクターはどのように描かれましたか?

星野 正直、軍人は描いていてあまり面白くなかった(笑)。結局、組織の中の人間ですから、良くも悪くも没個性的で。ただ、終戦内閣の首相だった鈴木貫太郎だけは面白かったですね。あの人も海軍出身ですが、茫洋としたキャラクターで、ほっとできた。

 

――戦争モノを描く難しさについてはどうでしょうか? かつて第二次大戦のヨーロッパ戦線やアフリカ戦線を漫画でお描きになっていますが。

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星野 日本の戦争を描くことには、特に抵抗感はなかったです。ただ、国土が爆撃され、どんどん追い込まれていく……逃げ場のない感覚をどう伝えるのか。私の父の世代でも、子供たちまでもがみんな死ぬんだと覚悟を決めていた、そんな異常心理をどう理解できるのか、そこは考えました。

――天皇制についてはどうお感じになっていますか?

星野 僕自身、特に良いとも悪いとも思っていません。ただ、天皇を利用する勢力がいつの時代にもいたわけで、平安時代であれば貴族の摂関政治、武家の時代であれば幕府、明治以降の政治も結局それです。「国体」などと称して天皇を取り巻く陣営に常に自分たちを置こうというような連中は好きになれないですね。

――星野さんはかつて『国辱漫画』という太平洋戦争を徹底的にパロディにした作品を文藝春秋発行の「コミックビンゴ」で発表されていました。今回の作品との関連は何かありましたか?

星野 実は、あの時と同じ出版社だとしばらく気づかなかった(笑)。今回、真珠湾攻撃のシーンを描いている時、「なんかデジャブ感があるな」と。

――ノンフィクションを漫画化する難しさはありましたか?

星野 そういう制約は特に感じませんでしたね。原作に沿って、自分の最低限の力を出すだけでしたから。終戦の1日を描くことに注力しただけです。

昭和天皇再考のきっかけに

――読者へのメッセージをお願いします。

星野 昭和天皇に対するイメージを、皆さんがもう一度再考されるきっかけになれば嬉しいです。私自身、この漫画を描くことで、昭和天皇に対する思いが変わっていきました。あの終戦の日に何があったのか。実は天皇は孤独な戦いをしていたのではないか……そのことが伝わってほしいですね。

 

 日米戦争が始まるときも、外交的になんとかならないか、と言い続けた。そして最後の最後には、国民のために終戦を決断した。その天皇の思いは、結果として、戦後の平和憲法に生きたのではないか、と思います。マッカーサーの押し付けだと言う人もいますが、案外、天皇の考え方に近いんじゃないか、と私は感じています。いま改憲論議が盛んですが、昭和天皇に思いを馳せて、あらためて憲法の意義というものを考えてほしいですね。

――今後の活動について教えてください。

星野 『宗像教授シリーズ』の続編を構想しています。

星野之宣(ほしの・ゆきのぶ)

1954年、北海道生まれ。75年『鋼鉄のクイーン』でデビュー。『はるかなる朝』で手塚賞入選。著書に『妖女伝説シリーズ』『2001夜物語』『ヤマタイカ』『宗像教授シリーズ』『星を継ぐもの』『海帝』など多数あり。2009年、日本人漫画家として初めて大英博物館で原画展を開催。

日本のいちばん長い日(上)

半藤 一利 ,星野 之宣

文藝春秋

2022年7月21日 発売

日本のいちばん長い日(下)

半藤 一利 ,星野 之宣

文藝春秋

2022年7月21日 発売