東京オリンピックの開会式から1年が経ちました。新型コロナウイルスの感染拡大による異例の1年延期を経て、2021年7月23日に開幕。8月8日までの開催期間は選手たちの活躍に日本国内も沸きましたが、その陰で開会式を巡る“辞任ドミノ”など問題も多発しました。今年の6月には大会経費の総額が1兆4238億円だったことも判明しています。あのオリンピックは一体何を日本に残したのかを振り返るために、オリンピック期間中(7月23日~8月8日)の掲載記事の中から、文春オンラインで反響の大きかった記事を再公開します。(初公開日 2021年8月1日)。

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 彼女の周りには、必ず助けてくれる人たちがいる。

 辛いとき、苦しいとき、必ず声をかけてくれる人がいる。それが、大橋悠依が東京五輪という初の大舞台で200m、400m個人メドレー2冠という快挙を達成できた大きな要因のひとつだ。

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400m個人メドレー、200m個人メドレーの2冠に輝いた大橋悠依 ©JMPA

 大橋が歩んできた道のりは、決して平坦ではなかった。中学生時代に全国JOCジュニアオリンピックカップで優勝したものの、高校時代はライバルに一歩及ばず、負けが続いてしまう。強豪の東洋大学に進学後は貧血に悩まされ、一時は「水泳をやめたい」と弱音も吐いた。

 大学卒業後も競技を続けたが、本人が言うところの「基本的にネガティブ」な性格はそのままだった。師事する平井伯昌コーチとの衝突もあった。

常に冷静な現状分析に見る「後ろ向きさ」

 確かに振り返ると、コメントも前向きというよりは、どこか後ろ向きの言葉が多い印象だ。とても冷静に自分の泳ぎとレース展開を振り返り、実に的確に分析してくれるのだが、ダメだったところや課題を探そうとするきらいがあった。

 自分に厳しいのは決して悪いことではない。ただ、そんな澱が溜まりすぎると、自分で自分を信じられなくなっていく。

ここまでの道のりは決して順風満帆ではなかった大橋 ©JMPA

 事実、2019年FINA世界選手権(韓国・光州)の200m個人メドレーで失格を取られてしまったとき、「なんて自分はダメなんだ」と、自分を責め続けてしまった。そうなると、周囲がいくら声をかけても、「自分はダメだ」の一点張りでなかなか前を向けなくなってしまう。

いつも必ず周囲に「助けてくれる人」がいる

 しかし、そういうときに、必ず大橋を救う人が現れる。

 このときは、チームスタッフのひとりが「自分の頑張りに失礼がないように、頑張りをムダにしないようなレースをしないと、もったいないよ」と声をかけた。このひと言で大橋はネガティブな自分を吹っ切り、最終日の400m個人メドレーで見事銅メダルを獲得するに至った。

 大学時代に貧血で悩まされたときには、同期でマネージャーを務めていた岡田真祐子(現東洋大学水泳部コーチ)が、厳しい言葉を交えながらも、ずっとそばで支えてくれた。それは大学を卒業してからも続いている。