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「学内ヒエラルキー」を暗に示している? 映画『スパイダーマン:ホームカミング』の選曲に込められた“意外な意図”

『マーベル・シネマティック・ユニバース音楽考 映画から聴こえるポップミュージックの意味』より#1

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『アベンジャーズ』や『スパイダーマン』をはじめとして、次々に新しいヒーロー映画を世に放っているアメリカのマーベル・スタジオ。中でも、2008年の『アイアンマン』から始まる映画シリーズは「マーベル・シネマティック・ユニバース」略して「MCU」と呼ばれ、同じ世界観を共有していることはお馴染みだ。

 ここでは、MCUヒーローたちの活躍に彩りを与える“音楽”に着目した本『マーベル・シネマティック・ユニバース音楽考』(イースト・プレス)から一部を抜粋。著者である映画評論家の添野知生さんと音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんが『スパイダーマン:ホームカミング』について語った内容を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む

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『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年公開)

DVD『スパイダーマン:ホームカミング』2017年発売/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

【あらすじ】ベルリンでアベンジャーズの戦いに参加した、スパイダーマンことピーター・パーカー。彼は昼間は普通の高校生としてスクールライフを送り、放課後はヒーロー活動に勤しんでいた。そんなある日、トニー・スタークに恨みを抱くヴィラン「バルチャー」が巨大な翼を装着して、ニューヨークを危機に陥れる。

【監督】ジョン・ワッツ

【脚本】ジョナサン・ゴールドスタイン/ジョン・フランシス・デイリー/ジョン・ワッツ/クリストファー・フォード/クリス・マッケナ/エリック・ソマーズ

【キャスト】トム・ホランド(ピーター・パーカー/スパイダーマン)マイケル・キートン(エイドリアン・トゥームス/バルチャー)ロバート・ダウニー・ジュニア(トニー・スターク/アイアンマン)

ソニー映画のMCU作品

添野 『スパイダーマン:ホームカミング』(以下『ホームカミング』)は、リアルタイムで観たときは「ソニー・ピクチャーズエンタテインメントの映画なのでMCUとは別」ということをあまり意識しなかったんですが、いま改めて観ると、ソニー映画としては特別な仕掛けがたくさんあることに気づかされます。

 最初にコロンビア・レディ(「自由の女神」風のロゴ)が出るところでアベンジャーズのテーマ曲がかかって、そのあとマーベルのスタジオロゴが出るところではソニー版のスパイダーマンのテーマ曲がかかる。ソニーとマーベルがお互いにエールを送り合うような演出になっています。

 ソニーが「MCUの1本」としてスパイダーマン映画を作るんだということで、ファンとして嬉しさが込み上げます。

ヴァルチャーのテーマソング

高橋 アバンタイトルで流れるのが、ローリング・ストーンズの名盤『Sticky Fingers』より「Can't YouHear Me Knocking」。これはドラッグ中毒者についての歌で、そんなことからマーティン・スコセッシ監督『カジノ』(1995年)のトレーラーやテッド・デミ監督『ブロウ』(2001年)のオープニングで使われていました。

添野 ここは本当に歌詞と脚本ががっちり絡めてあって、エイドリアン・トゥームス/バルチャー(マイケル・キートン)が「世界は変わる。我々も変わるときだ」って言ったあと、「8年後」という字幕が出るのと同時に「Can't You Hear Me Knocking」がかかる。この8年の間に違法なビジネスで大儲けして、「Can't You Hear Me Knocking」の歌詞にあるように「サテンの靴」を履くような暮らしをして、「コカインにハマった目」をして働いて、バルチャーが「天窓から戻ってくる」という。

 ここで書かれているのは、中小企業の社長が大企業に仕事を奪われたから、非合法なビジネスに手を染めて大成功したという話じゃないですか。こういうことは現実にもありがちだと思うんですけど、バルチャーは「家族を守るために金を儲けるんだ」って言いながら、そのためにやっていることが結果的に家族にとってマイナスになっていく。そこに気づけないところが「世界が変わってしまった」というセリフと合わさって悲しいんですよね。