老人vs高校生
添野 ピーター・パーカー(トム・ホランド)は、スプーンの「The Underdog」を聴きながら地下鉄で学校に通っています。地下鉄といってもニューヨークの中心部じゃないから高架で外に出ちゃってるんですけどね。本作は「老人vs高校生」という世代間対立の話でもあるので、音楽がストーンズからスプーンに繋がっていくことにも意味があります。
高橋 そしてもちろん、タイトルの「The Underdog」(負け犬)は、ピーターの学園内でのヒエラルキーを示唆しているわけですよね。
添野 この曲の歌詞は「誰かが何かを伝えに来てくれてもこのことに気づかないとか、自分が知らないことに対して敬意を払わないとか、負け犬になりたくないという気持ちが全然ないから、君は生き残れないんだ」ということを歌っています。これはまさにピーターのことで、彼が成長していく物語の最初にこの曲をかけるのが重要だったんでしょう。ピーターは現代の高校生という設定なのに、2007年にリリースされたちょっと古めのギターポップを聴いているのもおもしろいですよね。
高橋 「The Underdog」は、『クローバーフィールド』(2008年)や『40男のバージンロード』(2009年)など映画でよく使われる曲。そんななかでも『ホームカミング』と同じような意味合いを込めて流れるザック・エフロン主演の青春コメディ『セブンティーン・アゲイン』(2009年)が特に印象に残っています。
ラモーンズに捧げるリスペクト
添野 ピーターがニューヨークの街をパトロールするときに、ラモーンズの「Blitzkrieg Bop」がかかります。ピーターの家は、ラモーンズと同じクイーンズ区のフォレスト・ヒルズにあります。同じ地域の出身ということで、『スパイダーマン』の映画にはいつもラモーンズが使われたりラモーンズTシャツが出てきたりするんだと思うんです。
高橋 「Blitzkrieg Bop」はエンドクレジットでも再び流れますが、これはラモーンズが1995年にリリースされたロックアーティストによるアメリカのアニメ主題歌カバー集『Saturday Morning: Cartoons' Greatest Hits』で「Spider-Man」(スパイダーマンのテーマ)を取り上げていたことに敬意を表しての使用でもあるのでしょう。このあと『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年)のティーザーでの「I Wanna Be Sedated」、本編での「I Wanna Be Your Boyfriend」を経て、ラモーンズは『スパイダーマン』シリーズの音楽的アイコンとして定着することになります。
添野 「Blitzkrieg Bop」はトミー・ラモーンが書いた曲なんですが、高校生とか中学生のまだバンドを結成する前にフォレスト・ヒルズに住んでいて、食料品店で買い物をして歩いて帰る途中に、なんとなく歌っていたらできた曲だそうです。あんな、誰が聴いても忘れられないような曲を中学生ぐらいで思いついたというんですね。この映画でのピーターが15歳で、バンド結成時ぐらいのラモーンズのメンバーと同じぐらいの年頃ですよね。そこらへんにも共通点があるのかなという気がしました。