『アベンジャーズ』や『スパイダーマン』をはじめとして、次々に新しいヒーロー映画を世に放っているアメリカのマーベル・スタジオ。中でも、2008年の『アイアンマン』から始まる映画シリーズは「マーベル・シネマティック・ユニバース」略して「MCU」と呼ばれ、同じ世界観を共有していることはお馴染みだ。
ここでは、MCUヒーローたちの活躍に彩りを与える“音楽”に着目した本『マーベル・シネマティック・ユニバース音楽考』(イースト・プレス)から一部を抜粋。著者である映画評論家の添野知生さんと音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんが『アベンジャーズ/エンドゲーム』について語った内容を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年公開)
【あらすじ】最凶最悪の敵サノスによって、人類の半分が消し去られ、アベンジャーズも壊滅してしまった。失われた35 億の人々を取り戻す方法はあるのか? わずかな希望を信じて、アイアンマンやキャプテン・アメリカら生き残ったヒーローたちが再び集結する。
【監督】アンソニー・ルッソ/ジョー・ルッソ
【脚本】クリストファー・マルクス/スティーヴン・マクフィーリー
【キャスト】ロバート・ダウニー・ジュニア(トニー・スターク/アイアンマン)クリス・エヴァンス(スティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカ)クリス・ヘムズワース(ソー)
物語を仕切り直す意外な選曲
添野 フェーズ3の10作目『アベンジャーズ/エンドゲーム』(以下『エンドゲーム』)です。『エンドゲーム』で1本の映画というわけではなく、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(以下『インフィニティ・ウォー』)と合わせて前後編というつくりですね。シリーズがいよいよ大団円を迎えて、ここで一旦、全てが終わるというつくりになっています。アバンタイトルがあったあと、マーベルのロゴが出て、宇宙船のシーンでトラフィックの「Dear Mr. Fantasy」が流れます。
高橋 完全に度肝を抜かれました。この超大作シリーズのクライマックスを飾る作品のオープニングでまさかのトラフィック。「いくらなんでも渋すぎるだろ……」と思いつつ、冒頭のこの時点で『エンドゲーム』が期待にたがわぬ傑作になっていることを確信しました。
『スパイダーマン:ホームカミング』でうっすらと「The Low Spark of High Heeled Boys」が流れていましたが、ハリウッド映画でトラフィックの曲をこれだけ大々的に使った例ってちょっと記憶にないんですよね。トラフィックを筆頭として『エンドゲーム』の選曲は基本ブリティッシュロックが主軸になっています。
添野 好きなバンドの好きな曲なので、聞き間違えようがないんだけど、まさかこの映画で聴くことになるとは……。そもそも「Dear Mr. Fantasy」はシングルカットされたことがないし、ヒット曲でもなんでもない。1967年リリースのファーストアルバム『Mr. Fantasy』に入っている1曲なんですよ。よくこれを選んだなと。
高橋 かなり思い切った選曲ですよね。やはり『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の成功が、こうした大胆な選曲へと駆り立てたようなところもあるんじゃないでしょうか。
添野 ソフトに入っている、ルッソ兄弟と脚本家のふたり(クリストファー・マルクス、スティーヴン・マクフィーリー)による音声解説によると、「音色と歌詞が場面に合っていたのと、このシリーズ全体に曲が合っていると思ったから『Dear Mr. Fantasy』を選んだ。『インフィニティ・ウォー』とはムードを変えて、物語を仕切り直すということを映画の最初から示したかった」という風に言っています。ジェームズ・ガンのセンスに触発された部分はあるでしょうね。
この曲が流れるのは、宇宙船ミラノ号の中にトニー・スタークとネビュラだけが残って宇宙を漂流していて、することもないので時間を潰している場面です。歌詞は曲の最初のところを聴かせています。