文春オンライン

「サノスの『指パッチン』にもかかっている」『アベンジャーズ/エンドゲーム』音楽ジャーナリストが“度肝を抜かれた選曲”とは

『マーベル・シネマティック・ユニバース音楽考 映画から聴こえるポップミュージックの意味』より#2

note

 歌詞に目を向けると「小旅行に行こう/僕の超音速宇宙船を使ってもいいよ/光速を超える旅をするから、オーバーコートをしっかり着てね」というのが最初のラインです。これは本当に宇宙船でどこかに行こうということではなくて、家にいて何かに包まって目をつぶっていると、どこにでも行けるような気になる……という意味だと思うんですよね。レイ・デイヴィスらしい引きこもり賛歌になっている。

 これはキンクス自体がアメリカでは商業的に成功することができなくて、どんどんご隠居さんバンドみたいになっていた時期の曲なのです。それが田舎の村に引きこもっているソーの状況にぴったり合っている。

高橋 僕もソーが置かれている状況を踏まえた選曲だと考えています。歌詞中には「この船には有名人もいなければ乗客に上下の身分格差もない/誰もが平等でマイノリティが割を食うこともない」なんてフレーズがあります。「Supersonic Rocket Ship」が意味するものは、世のさまざまなトラブルからの避難所であり、人生に訪れる苦難からより良い世界へと逃避したいという願望を表現しているのではないかと。

ADVERTISEMENT

添野 本当にそうですよね。ミラノ号が降りてくるシーンにその歌詞が合っているし、コーラスのところの「人が多すぎてどこにも隠れる場所がない」という歌詞も、狭いトラックの荷台にロケットとハルクが乗っているシーンにぴったりと合っています。

逆境からのリベンジソング

高橋 ローリング・ストーンズの「Doom And Gloom」は、2 0 1 2 年リリースのベストアルバム『GRRR!』に収められた2曲の新曲のうちのひとつ。60年の活動歴を誇るストーンズ史においては、比較的最近の曲と言っていいでしょう。トラフィックの「Dear Mr. Fantasy」とキンクスの「Supersonic Rocket Ship」から時代こそ大きくずれていますが、ブリティッシュロックのレジェンドの楽曲が続きます。

添野 せっかくストーンズの曲を使わせてもらえるんだったらもっと違う曲にしたいというのは誰しも思うだろうし、そういう意味ではすごく不思議な選曲です。

高橋 グレッグ・モットーラ監督の『アドベンチャーランドへようこそ』(2009年)で1981年のアルバム『Tatto You』収録の「Tops」が使われていましたが、それ以降のストーンズの楽曲が映画で使われるのはかなり珍しいですよね。この「Doom And Gloom」のタイトルは「絶望と破滅」という意味になりますが、アベンジャーズを取り巻く状況に合わせた選曲なのではないかと。「屈辱を感じながら掃き溜めに座っている/俺に聴こえるのは絶望と破滅しかない/でも心の奥底で何かが鳴り響き出したとき、夜が終わるまでお前の顔を見ているのさ/ちょっとした運試しに俺と踊ってみないか?」という歌詞は、アベンジャーズの逆襲の狼煙とも受け取れます。

添野 歌詞では「飛行機を操縦していたら不時着をする夢を見た」「乗客はみんな酒を飲んで羽目を外していた」って言っています。太ったソーがビールの缶を持ってよちよち歩いている部分にも合ってますよね(笑)。