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論点3 なぜ「聖域」国防費と社会保障費と大幅カットしたのか?

 以上のように、2018年のロシアはこれまでの積極介入路線(ロシアから見るとある種の防衛的行動)をある程度緩和する方向に動くのではないかと思われる。これは経済面からも窺われることだ。ロシア経済は国際エネルギー価格の暴落によって2014年以降に深刻な停滞に陥り、2015-16年はマイナス成長となった。2017年にはどうにか持ち直してプラス成長となったが、肝心の原油価格は低いままであるため、政府は緊縮財政を続けている。しかも2017年には、これまで「聖域」とされていた国防費と社会保障費の大幅カットにも踏み切った。

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 国防費にしても社会保障費にしても、削減すれば多くの有権者からいい顔をされないのは確実である。それでも大統領選挙の前年というタイミングでこれを断行したのは、もはや財政再建を先延ばしできないというプーチン大統領の強い意向によるものと思われる。強硬派というイメージの強いプーチン大統領だが、実は国防負担の増加にはかなり警戒的で、2008年のグルジア戦争前までは国防費の対GDP比を2.5%程度で抑制してきた。近年の戦争続きで軍事負担もじわじわと増加し、2016年には4.7%にも達していたが、新たな3カ年連邦予算法では2020年には再び2.5%まで低下する計画だ。経済面ではロシアは徐々に「平時モード」へと戻りつつあるように見える。

論点4 3月の大統領選がイマイチ盛り上がらない理由

 大統領選についてもう少し述べると、プーチン大統領の再選はほぼ確実である。クセニア・サプチャク(プーチンの上司だったアナトリー・サプチャク元サンクトペテルブルグ市長の娘。テレビキャスター)のようなリベラル派の注目候補も居ないではないが、プーチン氏を脅かす存在ではない。たしかにサプチャクは都市のリベラル中産階級にはウケるが、国民の大多数を占める地方の下層階級には全くアピールしない。巨大なロシアをまとめあげるためには強いリーダーが必要だと考える保守派に対しても同様である。この点はクリントン候補が非リベラル票を取れずにトランプ候補に敗北した米国と似た構図とも言える。

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クセニア・サプチャク。リベラル中産階級にはウケるが…… ©getty

 ただ、プーチン大統領もさすがに2000年以来の長期政権で国民に飽きられている感は否めない。消去法的に選ばれはしても、かつてのような熱狂的支持にまではなっていないというのが実際のところであろう。まして今回は厳しい財政の下での選挙であるため、バラマキができない。選対部長としての手腕に定評があったヴォロディン大統領府第一副長官も下院議長に異動してしまい、選挙運営にも若干不安があると言われる。

 ちなみに最近、ロシアでは大統領選挙法が改正され、3月11日に予定されていた投票日が3月18日に繰り延べられた。これは「偶然にも」4年前のクリミア併合記念日に当たっている。愛国心によって選挙戦を盛り上げる戦略とも言われているが、やはり国民の選挙熱はイマイチのようだ。