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菅前首相など大物には高級ステーキ、電通の部下は魚民 高橋治之・元五輪組織委理事の“意外”な金銭感覚「電通の部下はもともと言いなりですから…」

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 五輪マネーを巡ってはこれまでたびたび議論されてきたが、ついに賄賂という“黒いカネ”の追及に、特捜部が本腰を入れた格好だ。組織委員会の関係者は「オリンピックマネーはそもそも真っ黒だった」と証言する。

「東京オリンピック招致委員会が、五輪誘致の票を持つラミン・ディアク氏の息子の口座に2億3000万円を振り込んでいた事件はフランス検察庁が捜査を進め、国内外で大きな話題になりました。その時に提出された銀行口座の記録によって、招致委員会から高橋氏に約9億円もの大金が支払われたことも判明しており、これは票の根回しに使ったお金と見られています。オリンピックは“スポーツの祭典”とクリーンなイメージで語られることが多いですが、そもそもが真っ黒だという認識を持ったほうがいい」

高橋氏の自宅を家宅捜索する捜査員たち ©️時事通信社

 オリンピックを招致しようとする国にとって国際的な“根回し”は当然であり、“裏金”の噂は数えあげればキリがないという。組織委関係者が続ける。

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「例えば、2016年の開催地招致を巡ってリオデジャネイロに負けた際も、東京に視察に来たIOCの委員に滞在費として現金入りの封筒を渡していたという話があります。また東京五輪開催が決まった2013年のブエノスアイレスでの総会の前に安倍元首相が中東諸国を訪問していますが、目的の1つは票集め。同行したある大企業の会長はビジネス的にウマ味が少ない中東への投資を決めたのですが、後で理由を聞くと『安倍さんに五輪票のためにやってくれと言われたら断れない。利益度外視でやらなきゃ仕方がない』と嘆いていました」

「高橋氏の影響力は、森元首相や竹田前会長とは比較にならないぐらい大きい」

 そんな生き馬の目を抜くスポーツビジネスの世界で、高橋氏はいかに上り詰めたのか。背景には、赤字続きだったオリンピックの転換期に、勝ち得た信用があったのだという。全国紙運動部記者が解説する。

「1972年のミュンヘン五輪でパレスチナの武装組織『黒い九月』がイスラエル選手11人を殺害する事件が起きました。これにより1976年のモントリオール五輪では、市がカナダ軍を動員するなど警備費で多額の費用がかかり大赤字。転機となったのは1984年のロサンゼルス五輪です。アメリカ政府から見放された組織委員長のピーター・ユベロス氏に、当時世界最大の写真用品メーカーだったコダックを差し置いて、大口のスポンサーとして富士フィルムを紹介したのが当時電通にいた高橋氏でした」

 ロス五輪は“商業五輪”の始まりとも言われ、黒字化に成功。その後、高橋氏はIOCやFIFAのトップと関係を築きながら、電通社内でスポーツビジネスを大きな収益柱に育て上げていった。高橋氏は電通で専務や顧問を務めた後に2011年に退任したが、国内外のスポーツビジネス界では、変わらず絶大な発言力を持っていたようだ。全国紙運動部記者が話す。

森喜朗氏 ©文藝春秋

「IOCにおける高橋氏の影響力は、森元首相や竹田JOC前会長とは比較にならないぐらい大きい。しかも『電通の元役員だから』というわけでもありません。電通はスポンサー選定などオリンピックにおいて大きな役割を任されていますが、それでもIOC上層部の思惑は電通のコントロール外。新聞記者がIOC幹部と接触したりすると、情報を仕入れたい電通のスポーツ局関係者からすぐに探りの連絡が来るくらい(笑)。そんな中でIOCトップにがっちり食い込んでいた高橋氏個人が、電通という会社以上に大きな影響力を持っていたんです」