前半戦こそ首位ターンを決めたものの、後半戦に入ってなかなか乗り切れていないホークス。怪我人が絶えなかったり、コロナ離脱も相次いだり、チーム状況としても心配なことが多い今季だが、前を向いて戦い続けなければならないし、ファンとしては前向きに応援していきたいと思う。
そんな時、この人の頑張っている姿には勇気を貰う。立ち止まっている暇はないと思わせてくれるガムシャラさ、無我夢中な姿には心を突き動かされる。育成ドラフト14位で入団したルーキーの仲田慶介選手だ。チームの逆境を自身のチャンスにし、目の前の一戦一戦、1プレー1プレーに必死に食らいついてアピールを続けている。
努力と根性でここまで這い上がってきた下剋上男
8月3日のウエスタン・オリックス戦では8番・二塁でスタメン出場し、3安打猛打賞。さらに、翌4日の同戦では2安打と結果を出した。
さらに、このカードはすべて二塁手としてフル出場しているが、仲田選手は外野手登録。強肩が最大の魅力の外野手としてホークスに入団したが、現在チーム事情もあって、二塁にも挑戦。試合で二塁を守ったのは小・中学校時代に軟式で経験して以来だといい、硬式になってからはほぼほぼ初めてだという。「緊張した」と言いつつも、小久保裕紀2軍監督も「セカンドはほとんどやったことないのに無難にこなしている」と評価していた。
さらには、「チーム事情が彼には幸いしているというふうに捉えた方がいいんじゃないですか」と言うように、本来二塁手としてやっていた選手たちがコロナやケガで離脱しているからこそ巡ってきた機会でもあった。そこでしっかりと対応できるところを見せているため、首脳陣としても仲田選手のこれからの起用の幅がさらに広がったことだろう。しばらくはセカンドの練習も続けるそうで、それが出来るようになれば三塁に挑戦する可能性もあるようだ。「ゆくゆくは周東みたいな感じの幅広く使えるプレーヤー、もっと言えば、牧原(大)みたいな感じで行ければ」と小久保2軍監督の言葉からもワクワクを感じた。
ここだけにスポットを当てると、器用で対応力があって、内外野守れるセンス溢れる選手にも映るが、決してそういうわけではない(言い方に失礼があったら申し訳ない)。仲田慶介という男は、とにかく努力と根性でここまで這い上がってきた下剋上男なのだ。
誇れるものは「練習量、それだけです」
福岡出身の仲田選手は、福岡大大濠高校、福岡大学で野球を続けてきたが、いずれも野球推薦での入学ではない。レギュラー獲りにも苦労したが、必ず最終学年までには頭角を現した。「やってすぐに結果が出る人と比べると、僕はこんだけやっても出ないかというタイプでした。心が折れそうになったことは何回もありますが、やり続けていたら、最後の最後で出るんだと今も信じてやっています」と話していた。誇れるものは「練習量、それだけです」と言っていたが、人が寝ている時も誰よりも練習し続けられる根気強さは立派な才能である。プロ入り後も、あの厳しさでお馴染みの小久保2軍監督が練習のやりすぎを心配するぐらいだからよっぽどだ。夜中も室内練習場でバットを振っているらしい。
そんな努力の人だが、仲田選手はただやみくもに練習しているのではない。常に戦略的に考えて取り組む姿勢も本当に素晴らしい。
スイッチヒッターの仲田選手は、1試合の中で左右両方の打席に立ち、両方で安打を放つのもまた特徴だ。これは学生時代に自身の持ち味を作ろうと両打の練習をし、努力で培ったスイッチヒッターである。現在も左右同じ量、バットを振っている。つまり人の倍以上、日々バットを振っているのだ。
そして、仲田選手はとにかくコンパクトにバットを振って単打を重ねる。「センター中心に低く強い打球を打つ」ことを心がけているのだというが、ここにも仲田選手の生きる道が表れている。大学まではバットを長く持っていて、長打を狙う場面もあった。しかし、現在はバットを短く持っている。遠くに飛ばすのではなく、とにかくコンパクトに振ることを意識しているのだというが、その思いは「飛距離では勝負できないので、確実性をとにかく磨いていこうと思って」と仲田選手。誰かの助言なのかと思って聞いてみたら、なんと「ドラフトが終わってから、自分で考えて練習してきました」という。仲田慶介という選手がどうやったらプロ野球の世界で道を切り開くことが出来るのかというのを、冷静に考え、貪欲に取り組んできたのだ。
ちなみに、『走攻守揃った強肩外野手』という触れ込みでのプロ入りだったが、『強肩』もトレーニングと身体の使い方の研究を経て手にした能力だし、『走』も努力で磨き上げられている。ドラフト後からプロ入りまでの間に様々なトレーニングを積んできた仲田選手だが、より足を速くするために、走りの専門家にも師事した。彼に立ち止まる暇はないのだ。