野球を始めた7歳の夏。初めて買ってもらったグローブが愛おしくて、手につけたまま抱きかかえるように寝ていたことを今も鮮明に覚えている。
僕はそれから小中高大までプレーした15年間の野球人生の中で、合計5個のグローブ(内野用3個、外野用2個)を使ってきた。その全てを今でも綺麗な状態で保管し、いつでもキャッチボールができる状態にして部屋に並べている。
グローブは、野球を愛する者にとって相棒であり戦友でもあり、何歳になってもテンションを上げてくれて、いくつになってもあの頃に帰らせてくれる、そんな存在だ。
牧原選手の強烈なグローブ愛
ホークスの牧原大成内野手もまた、グローブをこよなく愛する野球人の1人である。
皆さんもご存知の通り、牧原選手は内野から外野までの7つのポジション全てをこなす球界随一のユーティリティープレーヤーだ。そして、その全てのポジションにおいて、日本トップレベルの守備力を誇る。その要因として、牧原選手の野球勘や、判断力の良さ、足の速さ、肩の強さが挙げられるのは言うまでもない。
しかし、ここにプラスして、ポジションごとにグローブを替える牧原選手の強烈なグローブ愛、そしてグローブへの強いこだわりも、ホークスファンならびに野球好きの皆さんには本稿でぜひ知ってもらいたい。
そもそも牧原選手はグローブが大好き。現在、家に数十個のグローブを保管しているほどのコレクターでもあるのだ。今でも休日になると、行きつけのスポーツ店や、たまたま通りかかったスポーツ店にふらっと立ち寄り、その場でグローブを買って帰るほど。一流プロ野球選手は各メーカーの担当者の方から球場に来てくれるので、自分でお店に買いに行くことなんて普通はないことなのだ。
余談だが、そんな風に家に増えていくグローブの数を見て、奥様の仁美さんは整理が大変で困っているのだとか。
「セカンド・ショート」と「サード」のグローブの違い
ところで、グローブには大きく分けて、投手用、捕手用、内野手用、外野手用の4つの種類がある。この中でも特に細かく分類されるのが内野手用だ。実は内野の4ポジションのグローブは、同じに見えて全く違う特徴を持っているのである。
一番有名なのは、ファーストミット。これはグローブの大きさが他の内野手用の1.5倍ほどあり、内野手の一塁送球がどんなボールでも捕れるように大きくなっている。また、作りとしてはポケットと呼ばれるボールを捕球する場所が深くて広い。そのため、ボールを捕って投げるときに取り出しにくいが、ファーストは捕ってプレーが終わるケースが多いので、捕ることが優先されているのである。
そして、ここからがあまり知られていない、「セカンド・ショート」と「サード」のグローブの違いである。
ちなみに、なぜセカンドとショートがひとくくりなのかというと、セカンド・ショートは試合における役割や頻度(例:中継プレー、グラブトス、ダブルプレーなど)が類似していることから、グローブの特徴や形などもほとんど同じだからである。もちろん、選手によって、癖や使いやすさがあるため、ここでは一般的な視点で述べさせてもらう。
まず、「セカンド・ショート」のグローブの特徴は「ほぼ平ら」で、他のポジションのグローブより「小さい」という所である。つまり、先程記した“ポケット”がほぼないのである。
それは、セカンド・ショートは捕ってから投げるまでのスピードの速さが最も求められるポジションだからだ。併殺プレーや、外野からホームへの中継プレー、さらにはボテボテのゴロや飛びついて捕球した後など、スローイングにいち早く移れるようにボールが取り出しやすくなっているのである。
そのため、レベルの高い選手になればなるほど、ボールを捕球するときに、グローブをほとんど閉じないとされる。セカンド・ショートのグローブは俗に「当てグロ」とも呼ばれている。つまり、打球や送球をグローブで掴むのではなく、手のひらに当てて勢いを殺し、すぐ右手に握り替えて送球しているのである。普通に捕っているように見えるプレーであっても、そのわずか0.1秒の“素早さ”を求めてグローブを閉じずにすぐ送球に移る、そんなプロのプレーが詰まっているのである。