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西谷はコーチ時代に野球ノートを選手に習慣づけ、今ではそれが大阪桐蔭の伝統となっている。選手は毎日の反省や悩み、課題を書き込み、翌朝、西谷に提出する。社会科の教師である西谷も授業の合間にノートに目を通し、可能な限りコメントを書き、練習の前に選手に返却する。
「激励の中に、モチベーションを高める言葉が入っている。ノートでもよく怒られましたが、絶対に西谷先生は選手をけなさず、悪い部分をとがめたりすることもない」(森)
「PLにどうやったら勝てるのか」
西谷のコミュニケーション能力には、甲子園通算58勝のPL学園元監督の中村順司も舌を巻く。
「タイムリーを打った選手が、ガッツポーズをせず、表情も変えずに塁上でレガースを外していましたよね。大量点を取っても、淡々と野球をやる。以前のPLもそうでしたが、こういった姿勢が相手にとっては脅威になるんです。西谷君も西谷君で、本塁打を打った選手を掴まえて、おそらく『冷静に次の守備につくように』などと声をかけているのでしょう。選手に寄り添った指導ができている」
チーム作りにおいて他の高校が軽視しがちな、甲子園に繋がらない春季大会で西谷は控え選手や下級生を起用。競争を煽り、全体の底上げをし、それが夏の強さに結びついている。
野球指導者として西谷の根底に流れるのは、自身は縁のなかった甲子園に対する憧憬の眼差しと、かつて甲子園で一時代を築いたPL学園に対する反骨である。
〈#2へ続く〉