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〈大阪桐蔭、春夏連覇ならず〉”高校野球のヒール”西谷浩一監督はなぜ1学年20人しか入部を許さないのか

2022/08/18
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 中学時代にボーイズリーグ・日本代表のエースだった柿木は、高校進学を前に数十校から誘いがあったという。父・修は、その中から大阪桐蔭に決めた理由をこう話していた。

「最初はコーチが視察に来てくださり、その後は何度も西谷監督が佐賀まで足を運んでくださいました。本人も最初は悩んだと思うんですが、まるで洗脳されるように(笑)、大阪桐蔭に入学することが一番の成長の道だと口説かれました」

 西谷の執念はライバル校からしたら凄まじく、時に強引に映るのだろう。だからこそ、大阪桐蔭の強さを語る時、「全国から選手を集めている」「監督が練習を見ずに、選手勧誘にばかり力を入れている」といった批判がつきまとう。

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 この夏を最後に監督を退いた智弁和歌山の高嶋仁や、明徳義塾(高知)の馬淵史郎といった名将さえ、やっかみ半分でそういった皮肉を言う。

 前出のプロのスカウトは、選手の潜在能力を見抜くプロセスに注目する。

「勧誘する時点で、大阪桐蔭で活躍できるのか、他の学校に行った方が成長できるのかを、見極めている。入学後は選手に野球をできるだけ長く続けさせるための適正ポジションを見つけ、『プロに進みたい』と訴える選手がいても、大学に行った方が良いと思えば、志望届を出させない」

有数の進学校で“強豪野球部”が誕生した理由

 西谷がスカウティングに力を入れられるのも、私立高校であるからだ。公立高校では、他府県の選手を獲得することすら容易ではなく、また勧誘に必要な交通費も「出張費」とはならないだろう。だが、大阪桐蔭のベテラン教師は言う。

「森山信一元校長のおよそ5億円超の裏金事件が発覚した15年以来、大阪桐蔭は会計監査が非常に厳しくなっている。野球部の先生たちも、選手勧誘にかかる出張費などは相当、身銭を切っていると思います。それでいて、地に墜ちた学校のイメージを、野球部の甲子園での活躍が振り払ってくれているんだから、皮肉なものですね」

 野球部の選手獲得と、育成のシステムは、83年開校という歴史の浅い大阪桐蔭が、東大・京大の進学実績で府内有数となった図式に重なるとその教師は話す。

「大阪桐蔭は中高の一貫校で、優秀な小学生を集め、中学から高校レベルの授業を受けさせ、高校でもよりハイレベルな授業内容で進学実績を作っていった。野球部の選手は高校から入学してきますが、優秀な中学生に声をかけ、他校とは異なる濃密な指導で、強豪となっていった」