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スーパーキャッチで重症…福田秀平はなぜいまもホークスファンに愛されるのか

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/08/29
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ファンの心に焼きついている名場面

 福田はプロ入りしてから一度も規定打席に到達したことがない。つまり、バリバリのレギュラーとして活躍をした時期はないのだ。

 それでも福田の活躍はファンの心に焼きついている。印象強いプレーを見せてきたからだ。下積みが長く、一軍デビューはプロ4年目だった。翌5年目の2011年は出番を増やし、スタメン機会も増やした。シーズン終盤の9月30日の西武戦でプロ初アーチと勝ち越し決勝タイムリーを放つと、翌日もスタメンで先制打。その10月1日はリーグ連覇決定試合で、右翼の守備では優勝を決めるウイニングボールをスライディングキャッチの美技でつかみとり、その映像が繰り返し放映された。

 2015年5月9日には32連続盗塁成功の「日本記録」を打ち立てた。しかし、カッコつきなのはシーズン跨ぎのため(2011年から足掛け5年)。かつて「プロ野球のスピード感を変えた男」と称された広瀬叔功氏(南海)が1964年の1シーズンで達成した「31」を塗り替えるものだったのだが、NPBの規定では公式に認められなかったのだ。「自分で調べたんですけど、メジャーはシーズンを跨いでもOKらしいんです」と悔しがっていたのを覚えている。

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 2016年、2017年は大谷翔平(当時日本ハム)から本塁打も放つなど「エースキラー」と呼ばれたことも。そして2017年6月25日の西武戦(当時ヤフオクドーム)では1点ビハインドの9回裏に逆転サヨナラ2ラン本塁打。当時の工藤公康監督も「一生懸命やっていると、野球の神様が助けてくれる」と称えていた。2019年6月21日の巨人戦(東京ドーム)では元同僚で同期入団でもある森福允彦から勝ち越しの代打満塁本塁打。この2日後の同カードでは不慣れなセカンドで先発出場しながらも自身初の1試合2発の大暴れ。チームの交流戦優勝に大きく貢献した。

 紹介しきれなかった名場面はまだ幾つもある。鷹ファンは“福ちゃん”からたくさんの笑顔をもらった。そして、勇気ももらった。

「秀平、心が割れたらおしまいだぞ。割れない心が大事なんだ」

 デビューまで時間がかかったことからも分かるように壁には何度もぶつかった。レギュラーになるために必死に頑張る姿をずっと見てきた。そして、大怪我も乗り越えてきた。

 2012年には左膝手術。2014年には右膝にもメスを入れて、同年は左肩手術も行った。リハビリに励んでも痛みが引かず、選手生命が危ぶまれた時期もあった。

「苦しかった時、ムネ(川﨑宗則)さんから言われたんです。『秀平、心が割れたらおしまいだぞ。割れない心が大事なんだ』って」

 福田はどんな時も、明るさを絶やさず、ひたむきに前向きに突き進んだ。

 2022年現在のホークスにも福田が示してきた“イズム”はしっかり継承されているように思う。明るく楽しく、一生懸命に野球と向き合う。そして準備を欠かさない。ここ最近「筑後ホークス」「ちびっこ軍団」と呼ばれる若鷹たちの健闘は、まさにその賜物である。

 一方、福田はロッテに移籍後は高い期待値に見合う活躍が出来ていない。忸怩たる思いは本人が強く持っている。今季も一軍出場はまだ20試合どまり。必死なのは、本人から聞かなくても容易に想像できる。その中で8月24日の千葉で、また大怪我に見舞われてしまった。診断結果は左肩関節前方脱臼の重傷。全治不明との発表だったが、今季中の復帰は厳しい見通しだ。

 こんな時だって明るさを失わず……なんて正直言えない。“割れない心が大事”。そうやって試練を越えてきた。だから福田秀平はまた笑顔でグラウンドに帰ってくるはずだ。そう信じて、いつまでだって待っている。

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