執念の超絶ファインプレーだったが、大きな代償も負うことになってしまった。

 8月24日、ZOZOマリンスタジアムで行われたロッテ対西武。2-2の同点で迎えた7回表無死一塁にそれは起きた。ロッテの右翼手・福田秀平が担架で運ばれて退場したのだ。

 こんなプレーだった。西武・森友哉の放った右越えの大飛球を全力で追いかけて、グラブをはめた左手を思いっきり伸ばして最後はジャンプもして好捕。しかし、その勢いのまま外野フェンスに上半身から激突してしまった。その場に倒れ込み激痛に悶え苦しみながらも、すぐにボールを放り投げるとカバーに入った中堅手・高部瑛斗がそれを処理。タッチアップで二塁を狙った走者をアウトにしてゲッツーを完成させた。

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 各スポーツ紙の報道によれば、井口資仁監督はそのシーンについて「チームがまた生き返った」と敬意を込めて評したという。チームはその裏の攻撃で勝ち越し点を奪い5-2で勝利。連敗を3で止めた。

 この福田のスーパーキャッチは、ネットニュースの速報記事でも多く取り扱われた。賛辞の声や無事を祈る言葉はもちろんロッテファンから沢山届いていたが、「西武ファンながらナイスプレー! 軽症であることを祈ります」とのコメントも見られたし、さらには「鷹ファンですが、流石福ちゃんというプレーでした。これがあるから福田選手のファンは辞められない。ロッテに移籍して怪我と不調に苦しんで、悔しい思いをしてきたと思いますが頑張ってほしい。どうか軽症でありますように」や「鷹ファンです。福田選手の移籍後も気になってました。今日の福田選手の捨て身のファインプレーは贔屓チーム関係なく全ての野球ファンに感動を与えたと思います。 どうか軽傷であってほしいです。元気な姿で帰ってきてください」と古巣ソフトバンクのファンからもいくつも心配の言葉が寄せられていた。

福田秀平 ©時事通信社

なぜ福田は鷹ファンにこんなにも愛されたのか

 福田は2019年シーズンまで、ソフトバンクで13年間もプレーした。同年オフに取得していた国内FA権を行使。ソフトバンクも残留交渉を行って引き留めたものの複数球団からラブコールを受けた結果、ロッテへの移籍を決めた。

 同一リーグへのFA移籍。しかし、熱狂的な鷹ファンほど彼の決断を応援した。恨み節や遺恨の声はほとんど聞かれなかった。チーム内でも福田と一線を引くことなく、むしろ“遠距離”となったことを惜しむように連絡を取り合う選手などもいた。特に仲のいい同い年の柳田悠岐はその一人だ。

 なぜ福田は鷹ファンにこんなにも愛されたのか。

 ドラフト1位で入団した大型野手。だから期待値は従前より高かった。本人はドラフト指名時のことを「ドラフト中継で1位指名の選手って、映像で紹介されたり少なくとも写真が出たりするものですが、僕は顔写真すらなかったですからね(笑)」と述懐していたが、全国的に無名ながら1位指名する“何か”があるのだろうと、逆にロマンがあったのだ。

 また、人気者の先輩たちに可愛がられる“愛されキャラ”だった。なかでも川﨑宗則や城所龍磨の弟のような存在。福田も彼らと同じように天真爛漫なところがあり、なにより野球に対してはとても純粋だった。何事にも一生懸命立ち向かい、1つ1つのプレーに対して決して手を抜かず、どんな準備も大切にした。プロ野球選手の鑑だ。

 そして、弱音は決して吐かなかった。