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鳥谷敬が語る阪神がCS進出するために必要なこと

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/09/02
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理想は“ポジション固定”だが、有事に備える必要がある“現代”プロ野球の難しさ

 選手目線で考えた場合、この起用法はそれなりに負担も大きい。

 なぜなら、「準備に時間と労力がかかるから」。大山・佐藤両選手の場合、単純に内野と外野、両方の守備を練習しなければならなくなる。試合前の時間は限られているから、その中でやることが増えれば、当然ながら他を削らなければいけなかったり、単純に準備の時間を増やさなければいけない。打撃練習の時間を削って守備に重点を置けば、今度は打撃の準備が不足しがちになる、といった具合だ。

大山悠輔と佐藤輝明

 打順でも、同じことがいえる。

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 野球には打順ごとにある程度の「役割」がある。大まかに言ってしまえば1~2番は「出塁すること」、3~5番は「走者をかえすこと」だが、打順が変われば役割も変わり、そのための準備も変わってくる。

 また、自分の打順は変わっていなくても、後ろを打つ打者が変わるだけで、いつもとは「違う」ケースが生まれることもある。

 自分が出塁して、二塁まで進んだとしよう。そこで、次打者が内野を超えるライナー性の打球を打ったとする。その時、打者がいつも自分の後ろを打っている選手なら、打球の質や傾向が頭に入っているから「これは外野の前で落ちるな」「外野に捕られるから戻った方がいいな」といった判断が瞬時にできる。しかし、違う打者だった場合、その打球の質も、当然変わってくる。「打球が伸びるかもしれない」「捕られるかもしれない」という一瞬の躊躇が、時には致命傷になる。コンマ数秒のスタートの遅れが1点を奪えるか、アウトになってしまうかを左右しかねないからだ。

 その意味では1番から9番まで打順・守備位置が固定された状態で1年間を戦えることが、選手のパフォーマンスを最大限発揮できるという意味で“理想的”だと言える。

 ただ、現実はそう甘くはない。

 選手がケガをすることもあれば、調子を落とすこともある。

 さらに、今年の場合は「コロナ」がある。8月には大山選手、近本光司選手、中野拓夢選手といった「スタメンクラス」が一気に離脱したように、ここ数年のプロ野球は何が起こるかわからない。

 だからこそ首脳陣は選手に「複数のポジションを守れる」ことを求める。そうすれば、緊急事態時にダメージを最小限に抑えることができるからだ。

 シーズン途中にアデルリン・ロドリゲス選手を獲得したことも、そういった理由が少なからずあったはずだ。ただ、ロドリゲス選手の加入によって起用法の選択肢が「増えてしまった」のも事実だとは感じている。

 先ほども書いたように、使う側と使われる側の思惑は、必ずしも合致するとは限らない。

 そこが143試合を戦い抜く難しさでもあるが、選手たちはつねに、やれる準備をして試合に臨んでいる。

 今季の阪神は開幕9連敗というスタートを切りながら、一時は借金を完済するまで持ち直した。最大の要因は12球団ナンバーワンと言っていい投手力にある。だからこそ、ここから優勝、CS進出を目指すうえでは野手陣の奮起が不可欠になる。

 確かに「有事」に備え、複数の準備をこなさなければいけない現状は選手目線で見ると大変だろうとは思う。ただ、それは12球団すべてに言えることだ。苦しい状況なのは重々承知しているが、特に「野手」にはこの踏ん張りどころを何とか乗り越えてほしい。

 OBとして、阪神タイガースという球団の特殊さも痛いほど理解している。だからこそ、最後の最後まであきらめず、日本一熱く、そして厳しいファンを喜ばせるような戦いを期待したい。

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